昨日、英国最高裁は Iconix Luxembourg Holdings SARL(以下、Iconix社)対 Dream Pairs Europe Inc and another(以下、Dream Pairs社) [2025] UKSC 25 事件に判決を下した。
Iconix社は有名なスポーツウェアブランド「UMBRO(アンブロ)」を所有しており、1972年以来スポーツ用衣類に関連して登録されている以下を含む「ダブル・ダイヤモンド」ロゴの商標権者だ。

Dream Pairs社は、以下の標章を用いた様々な履物を販売していた。

2023年、第一審では、裁判官が「Umbroの商標との類似は殆どない」と判断し、Iconix社の請求を棄却した。しかし、その後2024年に控訴審でIconix社が勝訴し、控訴院は「第一審の裁判官の類似性に関する判断は不合理であり、原則的な誤りがあった」と認定した。これにより、1994年商標法第10条第2項(b)-登録商標に類似する標章を,当該商標が登録されている商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスについて使用すること-に基づく商標権侵害が成立すると判断された。
Dream Pairs社は最高裁へ上告し、最高裁は高等法院(第一審)の判決を維持した。最高裁は「控訴院による第一審判決への批判は的外れであり、合理的な立場の人々が異なる結論に至ることもありうる」と述べ、不合理性や、原則または法の誤り(本件では認められなかった)がない限り、控訴院が自らの異なる見解を多角的評価(類似性および混同の判断)に置き換えることは正当化されないとの判断を示した。
Dream Pairs社は最終的に勝訴したが、最高裁は「販売後の混同(post-sale confusion)」に関する同社の主張は退けた。
これまでの判例から、販売後の混同も第10条第2項(b)に基づく侵害を評価する際に考慮できることはすでに知られている。
今回の判決において最高裁は、(本件の控訴審でArnold判事が示した見解に賛同しつつ)次のように確認した。
「適切な事案においては、標章の使用が、販売時点では混同のおそれがなくとも、販売後の混同の結果として混同のおそれを生じさせることはありうる。」
この判断において、最高裁はDream Pairs社の主張を以下のように退けた。
「販売後の混同が、商標の本質的機能(出所を保証する機能)を、次の販売時またはその後の取引上の状況において侵害・脅かす場合にのみ、権利侵害が成立しうる。」、および、
「権利侵害が成立するためには、販売後の混同が、販売時や取引上の状況で消費者が当該商品やサービスを選ぶ際に影響を及ぼすという意味での損害をもたらす必要がある。」
この判決の現実的な影響は、商標権者にとって大きいものになるかもしれない。
今後、商標権侵害の主張の範囲が拡大し、販売時点での横並び比較や混同だけに依拠する必要はなくなる可能性がある。例えば、販売時に混同が生じにくい文脈的要因があったとしても、販売後の混同に関する関連証拠を提出できれば、それで要件を満たせるかもしれない。