「パッシングオフの原則」はときに批判を受けることがある。特に、未登録商標や形状・香り・音といった非伝統的な標識にまで商標保護を拡張する可能性があるという点が問題視されることがある。しかし、この原則は重要な役割を果たしてもいる。それは、事業者の権利を保護し、消費者を欺瞞から守り、公正な競争を確保するとともに、現代商取引の実情を反映するものだからだ。
パッシングオフとは何か、なぜ登録要件を求められないのか?
パッシングオフの原則は、英国法に由来する法的概念であり、他人の商品や役務と誤認させるような虚偽の表示や類似の標章の使用を防止することを目的としている。
タイの法律で、この原則は商標法第46条に規定されている。
* 何人も,未登録商標の侵害に対して使用の差止又は損害賠償の訴訟を裁判所に提起することはできない
* 本条の規定は,未登録商標の所有者が,商標所有者の商品として商品を詐称した者に対して訴訟を提起する権利に影響するものではない。
パッシングオフの原則は実務的な法概念と解釈される。これは、商標が登録可能であることや、商標法上の登録要件を満たしていることを立証する必要はなく、必要なのは、その商標が信用(グッドウィル)を確立しており、他人が類似の商標を使用することで消費者に混同が生じるおそれがあることを示すことだけだ。したがって、ブランド資産を保護するための簡便かつ有効な手段となっている。
もし、未登録商標について「本来登録可能であること」を立証させるとすれば、パッシングオフの本来の機能を損なうことになる。パッシングオフの原則は、まさに商標登録制度の隙間を埋めるために設けられたものだからだ。登録可能性の要件を課すことは、その意義を失わせ、商業的に価値のある多くの標識を保護から漏らすことになってしまう。
パッシングオフが十分に行使されなければ、第三者が権利者の信用や評判を不正に利用することを許してしまうことになり、こうした不誠実な行為は、消費者に対して本来の権利者の商品であるか、あるいは何らかの関係があるかのように誤信させることになる。その結果、侵害商品は権利者が一貫して維持してきた高い品質基準を満たさず、消費者に損害を与えることになりかねない。
さらに、店舗のレイアウト、パッケージデザイン、色彩などの非伝統的な識別標識は、法律上の登録商標には該当しない場合がある。しかし、これらも消費者の認知や信用を大きく獲得していることが多く、保護対象から除外することは、消費者が商品を識別・区別する商業的現実を無視することになる。
また、商品の形状が自然な形や機能上の必然性によるものであっても、事業者が多大な資源を投入してそのデザインを広く宣伝し、その結果として消費者がその形状を商品の出所を示すものとして認識するようになった場合には、その形状は識別力(いわゆるセカンダリーミーニング)を獲得したとして商標保護を受け得る。
パッシングオフ原則を支持する判例
タイ最高裁判所は判決第343/2503号において、商標が未登録であっても、継続的に使用され、消費者の間で広く認知・評判を得ている場合には、商標法上の登録可能性の要件を満たしていることを立証しなくても、パッシングオフの原則に基づき保護され得ると判示した。
また、知的財産・国際取引中央裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)の幾つかの判決でも、未登録商標についてパッシングオフの原則を適用する際には、その商標がタイ法上「登録可能」であることを立証する必要がないと判断されている。これにより、パッシングオフの保護が消費者の欺瞞を防止し、市場の健全性を維持することを目的としていることを強調し、事業者の利益を守る確固たる法的枠組みを提供している。
結論
登録要件に拘束された厳格な解釈をとることは、長年商標を使用してきたものの未登録のままの事業者から、正当な保護を奪うことになる。このような事業者が消費者からの信頼や評判を守る正当な利益を有しているにもかかわらずだ。店舗のレイアウト、パッケージデザイン、色彩やトレードドレスなどの非伝統的商標も、識別力を獲得している場合、または商標としての機能を果たしている場合には、保護対象とされるべきものだ。時間と資源を投じて信用を築き上げてきた事業者は、その商標が登録されていなくても、あるいは法律上登録対象とならなくても、法的保護を受けるに値する。これを否定することは、公正な商取引と消費者の信頼を損ないかねず、特に、パッシングオフの原則が登録を前提としない権利行使を認めている以上、その趣旨を踏まえた保護が必要とされる。
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