2025-08-12

英国:のれんの証明(「Crystal Bar」商標紛争におけるSKE対BB事件) - Novagraaf

英国における最近の「SKE対BB(Crystal Bar商標紛争)」事件は、のれん(goodwill)を立証しようとする際に、十分かつ関連性の高い証拠の重要性を改めて浮き彫りにするものとなった。Farhan Kaziが解説する。

2025年6月24日、「Crystal Bar」商標をめぐるShenzhen SKE Technology Ltd(以下、「SKE」)とBargain Busting Limited(以下、「BB」)に関する紛争が、イングランド・ウェールズ高等法院大法官部(Chancery Division)の控訴審に持ち込まれた。
SKE対BB事件の判決は、商標権を行使する際には、のれんを含む権利を立証するための証拠が重要であることを改めて強調するものとなった。

「Crystal Bar」商標紛争の背景
SKEは「CRYSTAL」ブランドの電子タバコの製造業者で、BBは「CRYSTAL CLEAR VAPOURS ELECTRONICS CIGARETTES」および「CRYSTAL ADDICT」という登録商標の権利者で、商標権侵害を理由にSKEを提訴した。
さらに、BBが登録出願した「CRYSTAL BAR」商標に対して、SKEはパッシングオフ(詐称通用)および不正の意図(bad faith)を理由に異議を申立てた。

この異議申立ては棄却された。聴聞官(hearing officer)は、SKEが基準日(relevant date)に保護可能なのれんを十分に立証できなかったと判断した。
SKEが提出した証拠には、展示会での「ソフトローンチ」に関する資料(聴聞官はこれを「極めて薄弱」と評価)や、単一のディストリビューターへの販売額(聴聞官はこれを多額とは認めず)が含まれていた。
なお、不正の意図に関する主張は取り上げられなかった。

控訴審
SKEは、以下の主張を主な控訴理由とした;
1.取引先(業者)間におけるのれんを考慮しなかった
聴聞官が業者間におけるのれんを十分に考慮せず、それを消費者がのれんの存在を裏付けるかという文脈でしか評価しなかった

2.保護可能なのれんが存在しないとした結論は合理的ではない
提出された証拠から導かれる唯一の合理的結論は、基準日においてSKEが保護可能なのれんを有していた

3.事前広告によって生じるのれんを考慮しなかったのは法律解釈の誤り
英国国内に顧客がいなくても、事前広告だけで保護可能なのれんが発生し得る

裁判所の判断
第1の控訴理由
聴聞官は、取引先との取引を含む証拠を考慮したが、最終的にそれは保護可能なのれんを示すには不十分と結論付けた

第2の控訴理由
聴聞官の判断は合理性を欠くものではなく、ソフトローンチ時の取引先との関係に関する証拠が極めて薄弱であるとの評価は正当であり、基準日において英国に保護可能なのれんが存在したことを示す証拠としては不十分と判断できる立場にあった 

第3の控訴理由
消費者向けの事前広告の証拠は存在せず、事前広告が消費者とのれんを形成し得るか否かという論点は意味をなさない。SKEはディストリビューターとの販売契約を有していたが、聴聞官はこれも判断の際に考慮していた。

裁判所は、聴聞官の判断には十分な根拠があり、当該時点において英国でののれんを示す証拠は不足していたと結論付けた。その結果、控訴は棄却された。

教訓
SKE対BB事件は、のれんに基づく先使用権や優先権を主張する際には、十分かつ的確な証拠の重要性を明確に示したものだ。

本文は こちら (A question of goodwill: SKE v BB in Crystal Bar trademark dispute)