2025-08-22

EU:小売商標「Rituals」、単一ブランドの小売サービスと真正使用のリスク? - Novagraaf

単一ブランド製品のみを販売する店舗(旗艦店など)の小売サービスと、複数のブランド製品を販売する店舗(百貨店など)の小売サービスは、どれほど異なるものなのか?
この疑問こそが、最近のCJEU(欧州司法裁判所)における第35類の「Rituals」商標に関する判決の核心であったと、Sven Valstarが解説する。

CJEUが Apple事件(C-421/13)及び Burlington Arcade事件(C-155/18) で下した判決以降、単一ブランド店舗が提供する小売サービスと、マルチブランド店舗が提供する小売サービスは、商標の観点からは全く異なるものとみなしてきた。なぜそうなるのだろうか?

第35類の限定的な解釈
ニース国際分類(標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定)で、第35類の小売サービスには、「他人の利益のために各種商品を揃え(その運搬を除く。)、顧客がこれらの商品を閲覧・購入するために便宜を図ること」が含まれている。

ここで取り上げる「Rituals」審判以前、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、ここでいう「他人」とは、自らの商品を販売する販売チャネルを探している様々な製造業者と解釈していた。
審査ガイドライン2.8.6では以下のように説明されている;
「『多様な商品を一堂に集めること』によって利益を受ける『他人』とは、自らの商品を販売する機会を求める各種の製造業者を指す」 

さらにEUIPOは、単一ブランドの店舗やウェブサイトを通じて自社製品を販売することは、第35類における「小売サービス」の真正な使用には当たらない、との立場をとっていた。具体的には;
「自社製品を宣伝することが第35類の広告サービスの使用とはならないのと同様に、製造業者が自社の店舗やウェブサイトで自社製品を販売するだけでは、第35類の小売サービスの使用とはならない。製造業者による自社製品の販売は、独立したサービスではなく、商品の登録によって与えられる保護の範囲に含まれる活動である」

この解釈の結果、単一ブランド商品を提供する店舗の所有者は、原則として登録から5年以上経過すると、その継続的使用によって第35類の小売サービスの保護を維持することができなかった。
小売サービスは、第三者に利益を与えていると事業者が立証できない限り、自らの中核的活動(商品の販売)の延長とみなされていたのだ。

では、自社製品販売時に、店舗スタッフの配置、広告、助言の提供、アフターサービスなどの追加サービスを提供すればどうだろうか?
残念ながらEUIPOは明確に、こうした付随サービスは販売提案の不可欠な一部でない場合にのみ「小売サービス」に該当すると述べており、通常の方法で自社製品を宣伝することは、独立した「小売サービス」として認められる可能性は低いとされた。

リチュアルズの挑戦
オランダのボディ・バス・ホームケアブランドの小売業者リチュアルズ(Rituals)は、最近、自社の文字商標「RITUALS」について取消請求を受けた。
「RITUALS」商標は、第3類・第4類・第21類・第24類・第30類・第35類の商品・サービスを指定して登録されている。 
EUIPO取消部は取消請求の一部を認容し、第3類の商品についてのみ登録を有効とし、それ以外の区分については取り消した。

リチュアルズはこれを不服として審判請求し、取消部の決定の一部取消を求めた。
審判(R 2472/2023-4)において、審判部は 「Praktiker」判決(C-418/02) を引用し、リチュアルズが以下の特徴を持つ小売モデルで事業を行っていることを認めた;
* 厳選された商品ラインナップの提供 
* 店舗での実演
* 顧客体験(ハンドマッサージや茶の儀式等)の提供
* 厳格なブランドルールに基づく選択的流通システムの採用
* 正規販売店からの支援

これらの活動は、購買決定を促し顧客体験を向上させることを目的としており、小売サービスの定義に該当すると判断された。
その結果、審判部はリチュアルズが争点となった商標を第35類の小売サービスについて真正に商標を使用していたことを十分に立証したと認定した。

今後の展開は?
この審判部の決定が、EUIPO における単一ブランド店舗による小売サービスに関する従来の立場からの方向転換を意味するかどうかは分からない。もっとも、本決定が示すところは、販売取引を促進することを目的として「体験」を包括的に提供する行為は、提供者が自社ブランド製品のみを販売している場合であっても、小売サービスの真正使用と認め得るという点である。

今後の判断は、提出される証拠および論拠に大きく左右されることになるだろうが、本決定は少なくとも、単一ブランド小売業者に対し、第35類の小売サービスの登録を引き続き主張し、かつ防御することが可能であるとの一定の確信を与えるものとなった。

ブランドオーナーへの重要な示唆
権利を維持する場合のみならず、登録商標に対する取消請求への防御を行う場合にも、証拠および論拠の準備が極めて重要である。商標代理人と連携して証拠を収集・整理しておくことにより、侵害主張や取消請求に直面した際に、拙速に資料をかき集めなければならないという状況を回避することができるからだ。

本文は こちら (Rituals and trademark class 35: Are retail brands no longer at risk in the EU?)