はじめに
コルカタ高等裁判所は最近、エクサイド・インダストリーズ(Exide Industries Limited、以下「エクサイド」 対 アマラ・ラジャ・エナジー&モビリティ(Amara Raja Energy & Mobility Limited、以下「アマラ・ラジャ」)において注目すべき判決を下した。本件は、商標権侵害および不正競争行為(passing off)の複雑な法理を扱っており、特に単一の色を独自のブランド要素として保護できるかどうかに焦点を当てている。争いとなった当事者は、インドを代表する自動車用バッテリーメーカーである エクサイド(原告)とアマラ・ラジャ(被告) だ。本件の中心問題は、アマラ・ラジャ が新製品「ELITO」バッテリーを発売するにあたり、従来 エクサイドと関連付けられてきた赤を基調とするトレードドレスを使用したことにある。裁判所の判断は、競争市場におけるトレードドレスや色彩の保護に関する重要な指針を示した。
事実関係
エクサイドは1920年からバッテリー事業を手掛け、長年にわたり主に赤と白を基調とするトレードドレスを使用してきた。同社は、単色の組み合わせに加え、「EL」の文字や商標登録済み「〇を正弦波で分断した図形(shattered O device)」などの要素を1世紀以上使用し、製品の出所表示として確立していると主張した。これに対し、エクサイドの主要な競合社であるアマラ・ラジャは、従来「AMARON」バッテリーを特徴的な緑色で販売していた。
紛争は、アマラ・ラジャが新製品「ELITO」を発売したことから始まった。国外市場では青のトレードドレスで販売されていたものの、インド市場では赤を基調とするデザインで発売されていた。エクサイドは、色の変更と「ELITO」の文字および「〇を正弦波で分断した図形」に類似する図形の使用は、消費者を誤認させる不正競争行為(passing off)であると主張した。これに対し、アマラ・ラジャは単一の色に独占権を主張できないこと、赤色が自社製品に特有の二次的意味(secondary meaning)を獲得したことをエクサイドが立証していないと反論し、アマラ・ラジャは、青色では「製品が目立たない」という販売代理店からのフィードバックを理由に色を変更したものだと説明した。
裁判所における争点
* 単一の色「赤」がエクサイド製品の排他的ブランド識別標識として二次的意味と営業上の信用(goodwill)を獲得しているか
* エクサイドの主張が不正競争行為(passing off)の三要件(評判・誤認・損害の蓋然性)を満たしているか
* 不正競争行為における被告の意図及び色変更に関するアマラ・ラジャの説明が信頼できるか
* アマラ・ラジャの「ELITO」製品の全体的外観が、エクサイドのトレードドレス及び商標と欺瞞的に紛らわしいか
判決
コルカタ高等裁判所は、エクサイドの申立てを認めアマラ・ラジャに仮差止め処分(interim injunction)を命じ、以下のポイントを指摘した;
* 色の識別性(Distinctiveness of Color)
一般的に単一色を独占できないとしても、エクサイドが1世紀以上にわたり赤色を継続的かつ広範に使用してきたことにより、予備的段階において製品との強い結び付きが形成されていると認定し、赤色そのものの独占を認めるのではなく、エクサイドのトレードドレスを構成する色彩の組み合わせや他の商標要素を保護する趣旨であることを明示した。
* 誤認と意図(Misrepresentation and Intent)
裁判所は、アマラ・ラジャの色変更の説明を信用できないと判断した。アマラ・ラジャ は従来緑色を使用し、広告では赤色を軽視していた歴史があり、突然の赤色採用に合理的理由がないことと、トレードドレスの類似性の高さを踏まえ、エクサイドの確立した評判を不当に利用しようとした可能性が高いと認定し、被告の欺瞞意図(intent to deceive)は、不正競争行為において重要な要素であることを強調した。
* 欺瞞的類似性(Deceptive Similarity)
裁判所は製品の外観を比較し、「ELITO」バッテリーの赤と白の配色、文字商標「ELITO」、類似する図形により、消費者に混同を生じさせる蓋然性が高いと判断した。
結論
本件判決は、単一色に独占権を主張できない一方で、独自かつ長期にわたって使用されたトレードドレスは、製品の識別力として保護され得ることを明確にした。ブランドの外観的特徴は、長期にわたって構築されてきた場合、重要な法的保護対象となることを示した。また、被告の意図や合理的説明の欠如が不正競争行為の判断において決定的な要素となり得ることを示す判例でもあった。本判決は、ブランド所有者を不当競争から保護しつつ、市場の全ての事業者に対して明確なガイドラインを提供する、バランスの取れたアプローチと言える。
本文は こちら (Seeing Red: The Exide v. Amara Raja Trademark Battle)