2025-09-17

ベトナム:商標使用基準の明確化に画期的判決 - Tilleke & Gibbins

2025年6月6日、ハノイ高等人民裁判所は、ベトナム知的財産庁が下した不使用取消決定を覆した。これは稀少かつ重大な判断であり、ベトナムの知的財産法の運用を明確化する可能性を持つものだ。裁判所は、商標権者が商標の使用に対して実質的な管理権を保持している限り、商標の有効な使用は商業的取決めを通じて立証し得るとし、いわゆる「形式的なライセンス契約」に限定されないことを認めた。

背景:国境を越えた使用と国内使用
 あるシンガポール企業は、東南アジア全域で高い認知度を得ている消費財ブランドを保有している。近年、このブランドはベトナムにおいて複数の無断商標出願の標的となっていた。その一例として、過去に周辺国向けの模倣品製造・輸出に関与していた経歴を有するベトナムの商社が、当該シンガポール企業の商標に対して不使用取消を申し立て、自社名義での商標登録を目論んだ。この取消が認められれば、ブランドの完全な乗っ取りが可能となる事案であった。

 当該権利者は、ベトナムにおいて組織的な越境サプライチェーンを通じて事業を展開しており、関連する2つの外国法人間の契約に基づき、そのうちの1社が地域事業を統括し、指定されたベトナム法人を通じて製造注文を行っていた。ベトナムの製造業者自体は当該契約の当事者ではなかったものの、その商標使用は内部文書や商業書類により認識・管理されていた。
 さらに、ベトナムの製造業者は、現地での商品生産に必要な各種許可・規制当局の承認・通関手続きを正当に取得しており、これらは銀行記録や社内通信により裏付けられ、継続的かつ積極的な商標使用の証左となっていた。
 しかし、知的財産庁は、当該使用はベトナム知的財産法に定める法定要件を満たさないと判断した。その理由は、ベトナム製造業者が商標権者と直接のライセンス契約を締結していなかったからとした。

戦略的訴訟:知財庁の決定への挑戦
 ベトナムでは、知財代理人が知的財産庁の判断を司法で争うことは稀であり、通常は行政不服申立が行われる。しかしこの方法では、解決に数年を要し結果も不確実だ。商標を不正出願人に奪われるリスクが差し迫っていたため、シンガポール企業は異例の対応として、知財代理人を通じて行政訴訟を提起し、知財庁の決定取消しを求めた。
 第一審では知的財産庁の判断が支持されたが、シンガポール企業は高等人民裁判所に控訴し、知的財産庁による商標使用およびライセンスの限定的な解釈を突く、包括的かつ理にかなった主張を展開した。

歴史的な判断とその影響
控訴審においては、以下の重要な論点が強調された;
* 形式的なライセンス契約に限定されない使用の承認:商標の使用は、流通契約や黙示的ライセンスなど、様々な形態で認め得る。権利者が商標使用を実質的に管理していることが核心である。
* 国際的な実務との整合性:世界的基準では、契約の形式よりも、商標に対する実質的な関与・管理の有無が重視される。
* 事業実態の考慮:知的財産庁の立場は、流通契約・供給契約・製造契約とは別に冗長なライセンス契約を締結させるもので、事業運営に不合理な負担を課している。
* ライセンス契約の目的:ライセンス契約の本来的目的は商業化であり、単なる承認の証拠に過ぎないものではない。
* 経済的・社会的影響:権利者の承認を受けた現地企業は、国家財政や雇用に顕著な貢献をしており、またベトナムが模倣品生産の温床と見なされることは国際的信用を損なうリスクを伴う。

 高等人民裁判所はこれらの主張を全面的に認め、知的財産庁の決定を覆し商標権を回復した。本判決は最終的なもので、さらなる上訴は認められない。
 特筆すべきは、この事件がベトナムにおいて稀に見る長時間審理(ほぼ一日)を要したことであり、通常の数時間程度で終結する知財訴訟と比べ、その事案の複雑さと重要性を浮き彫りにした。

結論:着実な前進
 本判決は、ベトナムにおける商標使用の立証方法について明確な指針を示すものだ。すなわち、商標の有効使用は、形式的なライセンス登録が存在しなくても、実際の商慣行と権利者による管理を通じて成立し得ることを確認した。

本文は こちら (Landmark Decision: Clarifying Trademark Use Standards in Vietnam)