EUIPO(欧州連合知的財産庁)は、スクーターの象徴的ブランド「ベスパ(Vespa)」を製造するイタリアのピアッジオ & C. S.p.A.(以下、「ピアッジオ・グループ」)による、スクーターの形状を立体商標として登録しようとする試みを拒絶した。この立体商標登録の不成功は、改めて非伝統的商標の保護が困難であることを示すものである、とAlexis Thiebautは解説する。
ピアッジオ・グループは、2024年6月にスクーターの形状を保護するため、第12類(スクーター)および第28類(スクーターの模型)を指定商品とする立体商標(EUTM)の登録出願を行った。

EUIPOは2025年4月15日付査定で、この立体商標の登録を全面的に(そして予想通り)拒絶した。
理由は以下のとおり;
* 関連需要者は、商品の外観から成る形状商標を、文字商標と同様に認識するとは限らない
* 業界の規範や慣行から大きく逸脱する商標のみが識別力を欠くものではない
* 当該スクーターの形状は当該業界の基準や慣行から大きく逸脱するものではない
実際、このスクーターは湾曲した外形とハンドル上の二つのバックミラーを備えており、EUIPOはこれらをその種の商品に典型的かつ通常の特徴であると判断した。

主張の一環として、ピアッジオ・グループは自社スクーターが業界標準と異なると考える三つの特徴を強調した。しかし、EUIPOは次のようにこれを退けた。
「確かに、出願された商標とEUIPOが提示した例との間にはいくつかの相違が認められるものの、それらから生じる全体的印象は極めて類似しており、消費者は問題となっている標章を、市場に存在する類似形状の単なる一変形として認識するにとどまるであろう。」
さらにピアッジオ・グループは、過去に登録された立体EU商標(No. 011686482、下図参照)を引用した。しかしEUIPOは、この商標についても第三者の無効審判請求を経て、使用による識別力の獲得が認められたために登録維持となったものであり、欧州連合知的財産庁審判部(R0359/2021-5)およびEU一般裁判所(事件番号 T-19/22)は、その本質的識別力の不足を確認していると指摘した。

この点について、EUIPOは両商標がほぼ同一であるため、新商標の本来的識別力の評価は、先の審判部および一般裁判所の判断と異なる結論にはならないとした。
ブランドオーナーへの示唆
今回の決定は、立体商標や、より広くは非伝統的商標(色彩商標、位置商標、パターン商標等)の保護が極めて難しいことを改めて浮き彫りにした。また、現行制度下における唯一の実効的な手段は「使用による識別力の獲得」であることを確認したものである。
しかし、この「使用による識別力の獲得」も実務上は困難であり、欧州当局が要求する立証水準は極めて高い。加盟国ごとに証拠を提出する必要まではないが、EU全加盟国における識別力の獲得を立証しなければならない。
もっとも、2024年3月のEU一般裁判所判決(事件番号 T-652/22、ヴーヴ・クリコ・シャンパーニュのオレンジ色に関する事件)は、一定の証拠が複数の加盟国、さらにはEU全域を対象とし得ること、また特定の商品・サービスにおいては経済主体が複数の加盟国を同一の流通ネットワークに組み込み、これらを一つの国内市場のように取り扱う場合があることを認め、複数加盟国をまとめて立証可能とした。
この判決により要件が一部緩和されたとはいえ、商標がEU全域で使用により識別力を獲得したことの証明は依然として必要である。
ピアッジオ・グループは依然として拒絶された商標に類似する先行の立体商標を保有しているため、今回の拒絶による実質的な影響は限定的と考えられる。他方でブランドオーナーにとっては、非伝統的商標の識別力判断における欧州当局のさらなる緩和が望まれるところであり、それによりEU域内でのより効果的な権利保護が可能となることが期待される。
本文は こちら (Piaggio’s 3D trademark registration hits a dead end)