2025-10-02

インド:エコフレンドリーか消費者に誤解を与えるグリーンウォッシングか? - Chadha & Chadha IP

グリーンウォッシング(Greenwashing)時代の商標
「持続可能性」は、流行が次々と生まれる現代において、時代の最も切実な要請である。環境問題への意識が高まる中、消費者は自らの価値観に沿った持続可能性を体現する商品・サービスを優先的に選択する傾向がある。この消費行動の変化は、エコフレンドリーな製品に対する需要の急増をもたらし、「グリーン・ブランディング」の台頭を促している。

グリーン・ブランディングとは、ブランドのアイデンティティおよび事業運営を、持続可能性、環境責任、社会的意識を戦略的に結び付けることである。これは単なる視覚的美学、例えば柔らかい緑色の使用といったことにとどまらない。「エコフレンドリー」「サステナブル」「生分解性(biodegradable)」といった用語は、環境意識に根ざしたブランドイメージを形成するためにマーケティングで頻繁に用いられている。また、このアプローチは、安らぎの感覚を喚起し、健康やウェルネスといったテーマを強調することも狙いとしている。

しかし、この成長傾向は同時に、「グリーンウォッシング(環境に優しい‟グリーン”とごまかす、取り繕う‟ホワイトウォッシュ“を組み合わせた造語)」と呼ばれる憂慮すべき事態も生んでいる。グリーンウォッシングとは、企業が環境施策について誇張あるいは根拠のない主張を行い、実態以上に環境配慮的であるかのように消費者を誤認誘導する行為である。これにより、消費者の信頼は損なわれ、購買判断を誤らせる。このような状況下において、商標は極めて重要な役割を果たす。すなわち、商標は環境に関する信頼性を示す視覚的・言語的標識として機能するのである。持続可能性が差別化要因となるにつれ、グリーン商標の真正性および規制の重要性はかつてなく高まっている。したがって、ますます複雑化する環境下における消費者行動の形成に、商標が果たし得る役割を検討することは不可欠である。

本稿は、インドにおけるグリーンウォッシング時代に商標が消費者行動にいかなる影響を与え得るかを考察する。具体的には、グリーン商標の台頭と消費者の意思決定への影響を検証するとともに、消費者を欺き信頼を失墜させるグリーンウォッシングの問題にも言及する。

グリーン・ブランディング
過去10年にわたり、グリーン商標は顕著な潮流として現れており、環境意識の高まりに応じてブランドがいかに進化してきたかを反映している。グリーン商標は、葉や樹木などの自然を想起させるイメージや、緑色の配色を取り入れることで、持続可能性への取り組みを視覚的に示すことが多い。グリーン商標の台頭は単なるマーケティング上の流行ではなく、持続可能性を重視する方向へと消費者の期待が移行していることの表れでもある。

インドでは、グリーン商標の人気が、日用品からファッション、化粧品、包装資材に至るまで幅広い産業分野において明らかになっている。企業は自らのアイデンティティを環境責任と結びつけることを志向し、環境意識の高い消費者に訴求し、混雑する市場で製品を差別化するために、グリーン商標を戦略的に活用している。
しかし、この動向が加速するにつれ、その真正性と説明責任に関する問題が表面化してきている。

グローバルな視点
世界市場において、持続可能性はもはや付加的な価値とはみなされず、企業にとって中核的な事業上の要請となっている。この流れに対応し、欧州連合(EU)や米国といった法域は、環境主張を規制し、グリーン・ブランディングにおける透明性を促進するための断固たる措置を講じてきた。

欧州グリーンディールの下では、環境主張を行う企業は、信頼できる独立の検証可能な証拠を提示しなければならない。これは、EUが2050年までに世界初の気候中立大陸となることを目指す姿勢を強調するものであり、この使命における知的財産の重要な役割を認識し、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、商標戦略に持続可能性を統合している。EUIPOは「グリーン用語の統一データベース」を管理しており、環境関連商標に適した85,000語以上を収録し、1996年以来200万件を超えるEU商標(EUTM)出願をこの分野で受理している。

米国特許商標庁(USPTO)も同様に、商標における環境主張について厳格な識別力および正確性の基準を課している。USPTOおよび商標審判部(TTAB)は、過度に記述的であるものや、裏付けが不十分と判断された商標の登録を繰り返し拒絶してきた。たとえば、「GREEN-KEY」や「ALLERGYGREEN」といった用語については、識別力が欠けるとの理由で商標登録を認めなかった。 

これらの国際的な枠組みは、商標法と環境政策との間に強い整合性があることを示している。また、知的財産制度が、誤解を招くような出願を抑止し、真に環境配慮型の革新を評価することで、持続可能な開発目標を積極的に支援できることを例証している。
インドにとって、こうした国際的な実践は、自国の規制や知的財産制度を引き続き洗練させていくうえで貴重な示唆を与える。持続可能な商品に対する消費者需要が高まるなかで、信頼性と競争力の双方を促す「グリーン経済」における商標環境を形成する好機が存在している。

グリーン商標とインド法
インドの商標法には、現時点で「グリーン商標」に関する独自の分類や枠組みは存在しない。しかし、これらの標章も依然として1999年商標法の審査対象であり、特に記述性または欺瞞性の観点から判断される。

同法第9条1項(b)に基づき、「eco」「green」「organic」といった製品の環境的利点を直接的に表す標章は、識別力を欠くとして登録を拒絶される可能性がある。ただし、長期間の使用を通じてセカンダリーミーニングを獲得した場合は例外となる。他方で、第9条2項(a)は、公衆を誤認させるか又は混同を生じさせる内容のものである標章の拒絶事由となる。商標に組み込まれた環境主張を精査するための正式な審査基準が存在しないことは、この分野の法的曖昧さを増幅させている。

消費者の信頼性を強化するため、インド企業は、インド標準規格局(BIS)の「Ecomark」や、インド工業連盟(Confederation of Indian Industry)が開発した「GreenPro」といったラベルを活用することもできる。これらの認証は、持続可能性に関する主張が信頼できる基準によって裏付けられていることを消費者に保証する。

この課題を認識した中央消費者保護局(CCPA)は、2024年に「グリーンウォッシングの防止および規制に関するガイドライン(2024 Guidelines for Prevention and Regulation of Greenwashing)」を策定した。これは歓迎すべき前進である。このガイドラインは、グリーンウォッシングを「製品の環境保全上の利点に関する誤解を招く、または誇張された主張」と定義し、製造者、広告主、インフルエンサー、推薦人など広範に適用される。ガイドラインの目的は、持続可能性マーケティングにおける透明性、説明責任、消費者保護を強化することである。

このガイドラインは、「エコフレンドリー」「グリーン」「サステナブル」といった一般的または無条件の用語の使用について、独立した機関による認証、科学的データ、ライフサイクル評価などの検証可能な証拠によって裏付けることを要求している。また、「2030年までにカーボンニュートラル」「ネットゼロ目標」といった将来志向的な主張についても、具体的な行動計画を伴わなければ、欺瞞的マーケティングとみなされるおそれがある。

これらの規制の執行権限は、2019年消費者保護法に基づきCCPAに与えられており、虚偽のグリーン主張に対して措置を講じることが可能である。商標の観点から見ると、こうした規制の発展は挑戦であると同時に機会でもある。グリーン商標は依然として強力なブランディング手段であるが、事業者はもはや、それらが製品やサービスの環境的属性について消費者を誤認誘導しないよう確保する義務を負う。総じて、2024年ガイドラインは、環境意識の高い消費者を保護するという強まりつつある姿勢を示すものである。誠実に行動する企業にとって、この進化する規制環境は、責任ある、検証可能なグリーン・ブランディングを通じて差別化する機会を提供している。

説明責任と執行
インドにおけるグリーンウォッシング規制の強化は、理論上のものにとどまらず、既に著名ブランドに対する具体的な執行措置をもたらしている。特にゴドレジ社(Godrej)は、複数回にわたり監視の対象となった。2012年には、ゴドレジ・インダストリーズが「Good Knight Fast Card」を「100%天然」「化学物質不使用」と虚偽広告したとして、広告基準評議会(ASCI)から50万ルピーの罰金を科された。さらに2015年には、同社がゴドレジNo.1石鹸を「100%天然」「生分解性」「エコフレンドリー」と宣伝したが、実際には合成化学物質を含んでいたため、再び責任を問われた。

同様に、ヴォルタス社(Voltas Limited)も、自社のエアコンを「エコフレンドリー」で「5つ星のエネルギー評価」と広告したが、実際の評価はそれ以下であり、措置を受けている。さらに遡れば、2011年にはヒンドゥスタン・ユニリーバ社の洗剤ブランド(Surf Excel Easy Wash)を「100%天然」「環境に優しい」と宣伝したにもかかわらず人工的な原材料を含んでいたとして、環境森林省から100万ルピーの罰金を科された。

これらの事例は、ブランドやマーケティングで用いられる曖昧または誇張されたグリーン用語が、検証可能な証拠によって裏付けられていない場合、誤解を招くものと見なされ得ることを示しており、インドにおいて環境主張に対する規制の監視が強化されつつあることを実証している。したがって、商標や広告に持続可能性に関する表現を用いるブランドは、その主張が正確で具体的かつ十分に実証されていることを確保しなければならない。

結論
持続可能性が消費者選択の決定的要素となる中、グリーン商標は、ブランドが環境責任に取り組んでいることを伝える強力なシンボルとして急速に台頭している。この潮流は、消費者の価値観の変化のみならず、エコ意識の高いブランドが競争上の優位性をもたらすという商業環境の変化も反映している。インドにおいては、グリーン商標の拡大が、誤解を招く主張(グリーンウォッシング)を防止し、消費者の信頼を得るための規制強化と軌を一にしている。

本文は こちら (Eco-Friendly or Greenwashed? Trademarks in the Greenwashing Era)