はじめに
タイにおけるオンラインショッピングは、グローバル・プラットフォーム、ローカルのソーシャルメディア・ショップ、さらにはエンターテインメント性を前面に打ち出したソーシャルコマースの普及により、かつてないほど容易に利用可能となっている。しかし、この利便性の裏には、模倣品、海賊版コンテンツ、無断のブランド使用といったデジタル上の知的財産権侵害に関する懸念が高まっている。
一見すると、オンライン・プラットフォームは迅速な解決策を提供しているように思われる。主要なECサイト、ソーシャルメディア、ソーシャルコマース・プラットフォームの多くは「通知と削除(notice and takedown)」の仕組みを整備しており、権利者は商標権や著作権などの知的財産権を侵害する出品に対して苦情を申し立て、削除を要請することができる。
こうした仕組みは確かに有用であり、模倣品の掲載が消えるのを見ると前進したように感じられる。しかし、現実は必ずしも安心できるものではない。模倣品自体は依然として倉庫や市場、店舗に存在し、再び販売されるのを待っている。アカウントが削除された販売者も、数日以内に別の名称や新しいアカウントで戻ってくるのが常だ。言い換えれば、テイクダウンは根を抜かずに雑草を刈るようなものであり、必ず再び生えてくるのだ。
テイクダウンの限界と海賊版対策
通知と削除の仕組みは広く利用可能であり、権利者の多くは社内で対応することができる。」しかし、その効果は一時的であることが多いのが実情だろう。より効果的かつ持続的な保護を求めるのであれば、戦略的で多層的なアプローチが必要となる。
同様のことはオンライン上の海賊版にも当てはまる。映画、テレビ番組、スポーツ中継などを無料で視聴可能にする違法ストリーミング・サイトは、タイで広く流通している。これに対抗するため、権利者は「コンピュータ犯罪法(Computer Crime Act)」に基づき、デジタル経済社会省(Ministry of Digital Economy and Society)および裁判所を通じてウェブサイトのブロッキングを申請することができる。申請が認められると、インターネット・サービス・プロバイダーに対し、侵害サイトへのアクセスを遮断する命令が下される。ブロッキング命令は大規模な海賊版行為を阻止する効果を持ち得るが、侵害サイトはしばしば新しいドメイン名で再出現するため限界もある。
戦略的保護
侵害対象が物理的な模倣品であれ、無形のストリーミング・コンテンツであれ、テイクダウン手続きだけに依存していては、権利者は終わりのないモグラたたきに陥る可能性がある。ブランドを真に保護するためには、単にオンライン上のリンクを削除する以上の措置が必要だ。タイの法律ではより強力な手段が用意されている。
知的財産・国際取引中央裁判所(Intellectual Property and International Trade Court)における民事訴訟を通じて、差止命令や損害賠償を求めることが可能であり、これにより持続的な成果を得ることができる。
さらに、大規模な模倣品製造や常習的侵害者に対しては、警察や法務省特別捜査局(Department of Special Investigation)による刑事処分を求められる。これにより倉庫への強制捜索、模倣品在庫の差押え、侵害者の刑事訴追が行われる。こうした措置は、プラットフォームからの削除と異なり、問題の根源である模倣品の物理的供給に直接対処するものだ。
また、権利者が主体的に取り得る予防措置も存在する。タイの関税当局に対する商標や著作権の登録制度を利用することで、模倣品が消費者に届く前に国境で輸入を阻止できる。オンライン・プラットフォームや海賊版サイトを定期的に監視すれば、侵害行為を早期に発見できる。デジタル証拠を適切な形式で収集しておけば、法的措置を講じる際に円滑な訴訟手続きが可能となる。また、販売業者に対して侵害リスクについてトレーニングすることが、再発防止につながることもある。
実務上の対応
権利者にとって重要なのは、可能な対抗手段をバランス良く利用することと効率的な活用することだ。テイクダウンは迅速かつ有用だが、権利行使や実務的戦略と組み合わせることで、実質的かつ長期的な保護が可能となる。状況は案件ごとに異なり、迅速な削除要請が必要な場合もあれば、標的を絞った訴訟が適切な場合もあり、多くの場合には両者の組み合わせが必要だ。
オンラインにおける知的財産の保護は、影を追うような感覚に陥りがちだが対処が不可能な問題でもない。適切な手段を取れば、ブランドは評判を守り、模倣品や海賊版の流通を阻止し、消費者の信頼を維持できる。権利者は、オンラインとオフライン双方をカバーする戦略を設計・実行する専門家の助力を得ることで、権利行使が単なる対応策ではなく真に効果的なものとなり得るだろう。
本文は こちら (Beyond Takedowns: Tackling Online IP Infringement in Thailand)