中国のC&S Paper Co., Ltd.(以下「C&S Paper」という)の登録商標(第8262105号)の無効審判に関する行政訴訟において、最高人民法院は第二審判決を破棄し、最終的に当該商標の識別力を肯定するとともに、商標の本質的識別力を判断する際の基本原則を明確化した。
事実関係
C&S Paperは、第8262105号のロゴ商標(色彩主張あり)を所有している。本商標は、長方形の三分割対称型カラー・ブロック・ロゴで、中央部および両側部に異なる色が配されている。2011年5月7日、C&S Paperは第16類の指定商品「ティッシュペーパー、トイレットペーパー」について商標登録を認められた。
2021年3月1日、Guangxi Zhongxin Paper Co., Ltd.(以下「Zhongxin」という)は、中国国家知識産権局(CNIPA)に対し、当該商標の識別力が欠如しており、公的資源の占用を理由として無効請求を行ったが、CNIPAは当該商標の登録を維持する決定を下した。Zhongxinはこの決定を不服として北京知的財産法院に上訴した。

第一審(北京知的財産法院)は、Zhongxinの請求を棄却し、当該商標には識別力があると判断したが、第二審(北京高級人民法院)はこれを覆して、当該商標はトイレットペーパーなどの商品の商標としてではなく、製品包装と認識される可能性が高く、本質的識別力を欠くと判断した。また、C&S Paperが提出した証拠は、使用によって識別力を獲得したことを立証するには不十分であるとした。そのため、第二審は第一審判決およびCNIPAの決定を取り消した。
C&S Paperは第二審判決を不服として、最高人民法院に上訴した。最高人民法院は2025年9月25日に判決を下し、第二審判決を破棄、第一審判決を支持し、最終的に当該商標の登録を維持する決定をした。
争点
本件の争点は、当該商標が2013年商標法第11条1項の「識別力の欠如」規定に抵触するかどうかである。最高人民法院の判決では、商標の本質的識別力を評価する際に遵守すべき基本原則が体系的に示された。本判決の要点は、今後の商標登録及び商標実務において重要な指針となるものだ。
1. 評価の対象:あくまで「関連する公衆」に限定
識別力の評価対象は一般公衆ではなく、指定商品の消費者および流通業者等の市場関係者に限定される。トイレットペーパーなどの日用品については、関連する公衆には一般消費者のほか、卸売業者や販売業者などの業界関係者も含まれる。評価は、この集団の一般的な知識水準と認知能力に基づいて行われるべきである。
2. 評価の時点:「出願時」を基準とする
最高人民法院は、本質的識別力の有無の評価は原則として商標出願時の事情に基づいて行うべきであると明確に示した。この評価は、商標が出願時点で商品の出所を識別する能力を本質的に有していたかどうかを判断するものである。具体的には、ロゴ自体の意味・デザイン、出願時における関連公衆の一般的知識水準・認知能力、指定商品の業界での使用実態などを総合的に考慮する必要がある。登録後の使用状況や使用方法の規格化の有無は、原則として本質的識別力の判断に遡及的に影響を与えるべきではない。ただし、出願時点でロゴが一般名称化していたことを証明する証拠がある場合は例外である。
3. 評価の基準:全体的判断+商品属性の考慮
* 全体的判断の原則:商標は要素ごとに分解して評価すべきではなく、全体の構成に基づき評価されるべきである。商標全体として関連公衆に商品の出所を連想させることができれば、識別力を有すると認められる。
* 商品との関連程度の原則:商標と指定商品の関係の強さは重要である。関係が低いほど識別力は高く、関係が強いほど識別力は低くなる。本件では、当該商標の「三分割対称のグラフィック」と色彩組合せは、「ティッシュペーパー、トイレットペーパー」等の一般的な包装形式ではなく、商品そのものの品質・主要原料等を直接表すものでもなかった。一定のデザイン要素と独創性を有し、商品との結びつきが低いため、本質的識別力を有していると認められた。
4. 識別の区分:本質的識別力と使用状況の法的境界
最高人民法院判決の核心的突破点は、「本質的識別力」と「実際の使用状況」のの評価を厳格に区別した点にある。最高人民法院は、商標の実際の使用状況、使用の有無、使用の規格化の有無は、商標法における使用管理規定や取消制度(例:3年間不使用による取消)の規定範囲に属すると強調した。登録商標を製品包装として使用した事実だけでは、出願時点におけるロゴの本質的識別力を否定する根拠にはならない。第二審が使用状況を本質的識別力の審理に組み込んだことは、法律適用の誤りであると最高人民法院は認定した。
コメント
C&S Paper事件は、商標識別力の評価における評価主体・時点・基準・法的適用範囲を明確化することにより、司法実務における明確な指針を提供するものだ。企業にとっては、商標出願段階でロゴデザインの独自性を重視する必要性を示すとともに、権利維持の法的手段を区別する必要性を再認識させるもので、司法当局にとっては、本件で示された「出願時基準」「関連公衆認識」「全体的判断」といった原則により、類似事件における判断基準の統一が進み、商標保護の確実性と予見可能性が強化される。
本文は こちら (The Supreme Court’s Retrial Ruling Affirmed the Distinctiveness of C&S Paper’s Logo Mark)
