特例措置の終了と商標権者への影響
英国のEU離脱(ブレグジット)に伴い、EU商標から自動的に英国の国内商標として分割・生成された商標(クローン商標)に係る特例措置の終了が差し迫る中、これらのクローン商標は、不使用取消の脆弱性に晒される可能性があり、ブランドオーナーが知っておくべき事および商標権の安全性、有効性、強制力を維持するために講じるべき措置についてVanessa Harrowが解説する。
2026年1月1日以降、英国クローン商標は新たな局面に入る。つまり、EU域内における商標の使用は、英国における権利の有効性を維持するのに十分ではなくなるのだ。
ブレグジットとクローン商標
英国が2020年1月31日にEUを離脱した際、英国知的財産庁(UKIPO)は、EU商標および意匠登録を保有する数千のブランドオーナーが、ブレグジット後に英国における保護を突然失うことのないよう措置を講じた。
クローン商標の権利は、EU商標の出願日および履歴を継承し、そのほとんどが他の英国国内登録と同等に扱われている。ただし、使用要件に関しては大きな例外がある。
ブレグジット前、EU商標登録の権利者は、EU全加盟国ではなくEU域内での真正な使用を証明すればよかったため、英国市場内で具体的に権利を使用する義務はなかったが、ブレグジット後、クローン商標の権利者は、英国国内で登録された商標と同様に英国での真正な使用を証明する必要がある。
この移行を円滑にするため、5年間の移行期間が導入された。これにより、クローン商標の権利者は、異議や取消請求の根拠を立証するため、または不使用取消請求から防御するために、EU域内での事前の使用を依拠することができた。これは、英国での事前の使用がなかった場合でも、権利者が不使用の主張に対して突然脆弱になることを防ぐものだ。
「クローン商標」の使用要件に関する特例措置が2025年12月31日をもって終了する。
何が変わるのか?
2026年1月1日以降、クローン商標は英国国内商標と同じ使用要件の対象となる。つまり、商標の真正な使用を示すのは、英国国内での使用のみとなることを意味する。
クローン商標が英国における真正な使用を立証できない場合、不使用取消に対して脆弱になる可能性がある。英国では不使用の理由に対する閾値がかなり高いため、商業的判断や事業戦略といったものだけでは不十分だ。一般的には、商標権者の管理の及ばないような理由で商標の使用が不可能または不合理である場合にのみ認められる。
依然として英国登録簿に膨大な数のクローン商標が残る中、「クローン商標」の使用要件に関する特例措置の終了は、商標権者にとって重要な節目となるものだ。
クローン商標が英国で真正に使用されておらず、かつ権利者に不使用の正当な理由がない場合、不使用を根拠とした取消の対象となる可能性がある。
クローン商標:ブランドオーナーのための実務的考慮事項
* IP監査の実施: クローン商標の権利者にとって、知的財産ポートフォリオの権利と使用状況の監査を実施し、不使用のリスクがある英国商標権を評価するには、今が良い時期であろう。脆弱性が特定された場合、真正な使用を立証できないリスクに対応するため、エンフォースメント戦略を調整する必要がある。
* 商業的立場の評価: 脆弱性が特定された場合、商標権者は、英国が真の関心市場であるかどうかも評価し、そうであるならば、英国での使用を開始または増加させるための積極的な措置を講じるべきだろう。不使用の主張から防御するために示される使用は、真正なものでなければならず、不使用の主張を阻止するためだけに実施される形式的な使用であってはならないことに留意してほしい。
* 使用証拠の収集: 使用がある場合、または使用を開始する場合、その使用を文書化し、使用の証拠を作成することを検討することも良い時期だろう。これにより、必要に応じて真正な使用を示すための十分な態勢を確保できる。この点では、Questel社の使用証拠管理ソフトウェアのようなAIベースのツールが大いに役立つだろう。
* 脆弱性への対処: 使用がなく、使用の開始が不可能な場合、ブランドオーナーは商標の再出願も検討できる。ただし、エバーグリーン(同一の商標を再出願して新たな5年間の猶予期間を確保する行為が「悪意」と見なされること)の認定を受けないための注意が必要だ。
* 機会の利用: クローン商標の使用要件に関する特例措置の終了は、ブランドオーナーにとって新たな機会となる可能性もある。なぜなら、ブレグジット後にクローン化されたものの、権利者が英国市場に実際の関心を持っていない商標を、英国登録簿から排除することが可能になるからだ。クローン商標の権利の脆弱性から、第三者が英国市場での活動に障害となり得るクローン商標を排除するために不使用取消請求の増加することが予想される。
