ChatGPTのInstant Checkout機能は、会話型コマースの新たな時代を切り開くものである。ブランド・オーナーは、AI時代における販売機会を確保するため、ブランド保護および模倣品対策の戦略を適応させていく必要があると、Marc-Emmanuel Melletが解説する。
2025年7月23日に提供が開始されたInstant Checkoutは、ChatGPTとの会話の中に直接統合されたAgentic Commerce Protocolにより、推奨商品の購入をワンクリックで可能にするChatGPTの新機能である。現時点では米国ユーザーによる Etsy上のショッピングに限定されているものの、Shopifyその他への対応がすでに予定されている。Shopifyはオンラインストアの構築・管理・成長を支える人気のクラウド型オールインワン・プラットフォームであるため、ChatGPTのInstant Checkoutが間もなく業界全体に普及する可能性も高い。
OpenAIは、Instant Checkout機能が商品ランキングを歪めることはないと主張しており、特定の商品が単に統合されているからという理由で優遇されることはないという。従来どおり、価格、品質、在庫状況、一次販売者であるか否かといった古典的な基準に基づき位置付けは決定される。しかし、この中立性の約束にもかかわらず、この機能が商標権者に重大な影響を与えることはほぼ確実である。
AI:即時の可視性と模倣品リスク
Instant Checkoutは、ChatGPTとのあらゆるやり取りを「実質的な商品ショーケース」へと変容させる。単なるテキスト回答に代わり、ユーザーには価格、在庫状況、簡潔な説明が記載された「今すぐ購入」ボタンが表示される。この圧倒的な露出効果により、ブランド・オーナーは広告費を投下しなくとも、潜在的には数億人規模のユーザーに到達することが可能となる。
しかしながら、このプロトコルは、ChatGPTと関連するプラットフォーム上のすべての販売業者のプロダクトフィードを集約する仕組みであるため、悪意ある販売者が著名ブランドのロゴ、写真、名称を含む商品情報を掲載し、消費者を欺く余地も生じる。アマゾンなどのマーケットプレイスとは異なり、ChatGPT上では必ずしも「認証済み販売者(Verified Seller)」ラベルが表示されるわけではないため、消費者は正規販売店から購入しているのか、それとも無許可の第三者から購入しているのかを判別できない。
一度AIが模倣品を推薦してしまうと、同じ問い合わせが行われるたびに同一の推薦が再表示され得るため、その悪影響は増幅する。したがって、Instant Checkoutによって提供される高い可視性は、積極的な保護戦略を伴って初めて価値を持つ。そうでなければ、認知度向上のメリットは、評判の毀損、消費者クレーム、侵害訴訟といった深刻な問題に容易に転化する。
AI時代にブランドを保護する方法
AIが正規品を優先的に提示するようにするには、ブランドは会話型に特化したSEO(検索エンジン最適化)ともいえるGenerative Engine Optimisation(生成エンジン最適化:GEO)を採用する必要がある。SEOがウェブサイトの可視性向上を目的とするのと同様、GEOは生成AIモデル内での表示や順位付けを最適化するための手法である。
最初のステップは、カタログに真正性を示すメタデータを追加することである。具体的には、
「brand_verified: true」:販売者が商標を使用する正当な権利を有することを示す
「origin_country」:商品の原産国を示す
「copyright_holder」:著作権者を特定する、などが挙げられる。
商品説明は150〜200文字以内に収め、ブランド名、シリーズ名、色といった最も関連性の高いキーワードを含める必要がある。このような構造化された属性情報を付与することで、AIは適切なバリエーションを精密にフィルタリングして表示できるようになる。信頼できる情報源による認証済み評価、平均スコア、レビュー数を付すことで、正当性はさらに高まり、AIが疑わしい商品を誤って選択する可能性を低減させる。
加えて、保護措置として、商品写真にブランド名と固有識別子を含むウォーターマーク(透かし)を入れたり、「artist」「copyright」などのEXIF(Exchangeable Image File Format:注1)メタデータを付与したりすることで、プロトコルが「真正品」ラベルを付与できるようにすることが推奨される。最後に、バリエーション(サイズ、色)には個別のSKU(在庫保管単位:注2)、価格、在庫数を設定し、AIが在庫のないバリエーションを提案して混乱や苦情を招くのを防ぐ必要がある。
これらのベストプラクティスにより、カタログは言語モデルにとって読み取り可能なものになり、AIは完全かつ認証情報を備えたレコードを優先的に扱うようになり、メタデータを有さない模倣品業者は関連性評価システムによって後回しにされるか排除されるため、活動の余地を減らすことができる。
法的・技術的な防御手段
保護のための第一歩は、監視体制の構築である。監視ツールにより、OpenAIのAPIに対して典型的な商品検索クエリ(「Glossierドレスを購入したい」「Skimsハンドバッグ」など)といった典型的なクエリでOpenAIのAPIに照会を行い、そこから抽出された商品のリストを企業や専門家が分析する。
模倣品が発見された場合、証拠収集は極めて重要である。アクセスログ、AIの応答画面のスクリーンショット、関連するメタデータを保全することは、紛争が発生した場合のデジタル証拠として不可欠である。
その上で、Etsy、Shopifyなどの販売プラットフォームに直接働きかけ、模倣品の販売広告の削除およびChatGPT上から「削除依頼」させなければならない。商標権者は、これまでの伝統的な権利行使メカニズムを活用することが有効だ。
最後に、真正性を表示するラベルにより消費者の信頼を維持する必要がある。「brand_verified: true」というようなメタデータを付与することで、プロトコルはチャット内に視覚的バッジを自動的に表示し、ユーザーを安心させ、無許可販売者を抑制できる。返品ポリシーをチェックアウトフローに組み込み、ブランドの利用規約への明示的リンクやクーリングオフを含む法的要件を満たす自動返金プロセスを提供することが望ましい。さらに、公開されたAPI を通じてアクセス可能な正規販売店プログラムを用意することで、販売店はカタログ提出前に自身が正規の権利を持っているかを確認できるようになる。
これらの技術的・法的手段を組み合わせることで、商標権者はInstant Checkoutの商業的ポテンシャルを最大限に活かしつつ、知的財産権を効果的に保護し、模倣品の拡散を抑えることができる。デジタルコマースの未来が会話内で展開されるようになった今、技術の最前線をいち早く確保できたブランドこそが、この発展の恩恵を最も受けることになるだろう。
(注1)EXIFメタデータ: 撮影日時、カメラの機種、露出設定、位置情報など、画像ファイルに直接埋め込まれた情報のことで、写真の撮影条件や技術的な特性を記述したもの。
(注2)SKU(在庫保管単位): 各製品番号やバリエーション(サイズ、色など)ごとに割り当てられる固有の英数字コード。在庫管理、販売追跡、およびコマースシステムにおける商品の正確な識別を容易にするために使用されるもの。
本文は こちら (How to adapt your trademark protection strategy for ChatGPT Instant Checkout)
