2025-12-19

米国、インド:デュープ文化を利用する商標戦略の進化 - Chadha & Chadha IP

はじめに
米国のルルレモン・アスレティカ(Lululemon Athletica、以下「ルルレモン」)は、衣類、履物、ヨガ用品、アスレチックアクセサリーに関連する小売および広告サービスを指定役務として「LULULEMON DUPE」商標を米国特許商標庁(USPTO)に登録するという、異例ながら戦略的な措置を講じた。これは、「デュープ文化」が一種の社会的潮流となっている時期に行われた登録である。
本稿は、このような種類の商標登録が示すブランド保護戦略の変容と、それが急成長するインドのファッションおよび電子商取引分野に及ぼし得る影響を検討する。

「デュープ」文化について
「dupe(デュープ)」という語は 「duplicate(複製)」に由来し、あるブランドのオリジナル商品ではないものの、高級品の外観、デザイン美学、または想定される機能を模倣あるいは強く想起させる商品を指し、通常は大幅に低い価格帯で提供される。重要な点として、「デュープ」は必ずしも模倣品(例:ロゴを不正に付したもの)ではなく、むしろ外観が類似した製品や「インスパイアされた」代替品を意味する。

インフルエンサーらは、ハイエンド商品の低価格代替品を比較するために「#BrandNameDupes」といったハッシュタグを使用することが多く、これにより今日のデジタル環境におけるデュープ文化の普及が進んでいる。消費者の「手頃で、流行を反映し、品質の高い商品」を求める需要が、しばしばSNSでの拡散によって加速されることも、この文化の人気上昇を後押ししている。注目すべきは、著名ブランドでさえこの潮流に関与しつつある点である。例えば、フランスのMugler(ミュグレー)とH&Mの提携はデザイナー美学への広いアクセスを可能にした。また米国のOLAPLEX(オラプレックス) はデュープ文化に関する認知向上を目的として、架空の商品「Oladupé」を公開した。

ルルレモンの商標戦略
一見すると、「LULULEMON DUPE」のような表現を登録することは逆効果に見える。ブランドが自らの模倣品を連想させる語を商標としたい理由は何だろうか。知財戦略の観点からは、この措置には複数の目的が存在し、デュープ文化に対するグローバル企業の対応の仕方に影響を与え得る。

ルルレモンは 2024年12月、「LULULEMON DUPE」を使用予定に基づく出願(proposed to be used basis)を行った。その後、この出願はベネルクスでの先行登録を基礎とする米国商標法§44(e)(外国登録に基づく出願)への変更が行われ、2025年10月21日にUSPTOは商標登録を認めた。

今年初め、ルルレモンがコストコに対して、ルルレモンの Scubaパーカー、スウェットシャツ、ジャケット、ABCパンツ(ABCは「Always Be Comfortable」の略)の模倣品を販売したとして提訴したことからも推測されるように、ルルレモンの模倣品対策は転換点を迎えていた。行政当局はコストコのような小売業者による「デュープ製品」の製造・販売そのものを直接的に阻止することはできないため、ルルレモンはより能動的なアプローチを選択したのである。今回の商標出願は、消費者が日常的に使用する語である「dupe」を排他的なブランド資産に転換し、第三者が不当な利益を得るのを防ごうとする、知的財産戦略の進化を示している。すなわち、使用頻度が高まりつつある語句を登録することで、語句がルルレモンと関連づけられて商業利用される範囲を統制し、混同や希釈化を回避しようとする意図が読み取れる。

この「潜在的な弱点を強みに変える」戦略は「ブランド柔術」とも呼ばれている。模倣品製造者ごとに個別対応を繰り返すのではなく、ルルレモンは「デュープ」という文字そのものを利用し、「デュープは存在するが、これが本物だ」と位置づけたのである。実際、2023 年にはロサンゼルスで「デュープ・スワップ(dupe swap)」ポップアップ・イベントを開催し、アラインレギンス(Align leggings)の模倣品と正規品の交換を促すイベントを行い、数千人の来場者を集めた。その半数以上は初めての顧客であったという。

このアプローチは、「デュープ」という語を冠した模倣品の販売に伴う消費者の混乱や、ブランドの信用・努力へのフリーライドを抑制する。これによりルルレモンは、非正規販売者やインフルエンサーが、ブランドの非関連商品の宣伝に当該語句を用いる場合に異議を申し立てる権利を有するようになる。すなわち、ウイルス的だが無規制であった文字を管理された資産へと変え、削除要請、無許可出品の阻止、真正品と模倣品の区別の明確化を可能とする。結果として、ルルレモンは商品の真正性をより効果的に表示し、自らの権利を保護し得ることになる。

また一部の論者は、当該登録は商標の実使用よりも、権利行使の面からの優位性獲得に重点があると指摘している。これらの点から、ルルレモンのアプローチは、反応的な権利行使から能動的・先取り型の所有戦略への転換を象徴し、SNS上の言語を負債から資産へと変換する試みと捉えられる。

インドにおける商標戦略
「Lululemon dupe」という文字はその性質上、記述的である。「dupe」のようにオンライン、特にインフルエンサーマーケティングや商品レビューにおいて一般的となった文字に商標保護を与えることは、ソーシャルメディア由来の語句がブランド名に代わって商標登録を席巻するリスクを伴う。商標庁は、「brand name inspired」や「brand name dupe」といった出願が真正な商標として機能し得るのか、それとも広く用いられる文化的表現を独占しようとする試みにすぎないのかを判断する必要がある。また、商標権侵害と適正な論評、風刺、比較広告との境界を曖昧にする可能性もある。実務上は、特に米国において、出願人はこの種の標章を実際の商取引においてどのように使用しているかを具体的に立証しなければならない。

インドにおいては、インド最大のファッションECのMyntra、インド発のソーシャルコマースプラットフォームのMeeshoやインスタグラムなどのプラットフォームでデュープ文化が広く浸透しているため、この商標登録の動きは警鐘であると同時に示唆にもなる。インド1999年商標法第9条は、識別力・非記述性に関する絶対的拒絶理由を定めている。そのため、「XYZ Dupe」といった標章は、出願人が獲得識別力を立証するか、または当該標章が出願人の商品・役務を他者と識別し得ることを証明しない限り、商標法第9条(1)(a)および(1)(b)に基づく拒絶理由に直面する可能性が高い。他方で、インフルエンサーがブランド名やロゴを用い、あたかも当該ブランドの承認があるかのように「dupe」と称して商品を宣伝する場合、パッシングオフまたは商標侵害の主張を誘発し得る。

したがって、この戦略はブランドが自らの商標管理およびブランド・アイデンティティを強化することを可能にする一方、創造性や文化的慣習を抑制するリスクも伴う。多くの消費者は、機能性や価格へのアクセスを容易に確保するためにデュープに依存している。例えば、有名デザイナーが正規品としてデザインした結婚式の服装などの模倣品を販売している拠点として知られているデリーのチャンドニー・チョーク(Chandni Chowk)は、デュープ文化が包摂性や健全な競争を支えている一例である。創造的インスピレーション、入手可能な代替品、そして侵害行為の境界は極めて曖昧であり、過度に広範な権利行使は、革新の阻害、消費者選択肢の制限、市場における文化表現の抑圧につながりかねない。

結論
「LULULEMON DUPE」の商標登録により、ルルレモンは単に自社製品を保護したにとどまらず、「デュープ文化」をめぐる言説を再び自らの側へ引き寄せた。この行動は、ソーシャルメディア、ウイルス的拡散、言語の力といった要素を考慮に入れた新たなブランド保護戦略を示している。アクセス性と価格手頃性に支えられたデュープ文化は、無害な模倣とブランドの潜在的な権利侵害との境界を曖昧にする。こうした商標の法的強制力と商業的な影響は今後の動向を待つ必要があるが、本件は、デジタル市場およびグローバルにつながる消費者の行動に対応して知的財産戦略がどのように進化しているかを強く示唆するものである。 

本文は こちら (Owning the dupe culture: The evolving practice in trademark registration)