オーストリアの石油化学企業OMV AG(以下、「OMV」)と女性用衛生用品ブランドとの最近の紛争を題材に、異なる市場であっても、「by」のような二次的要素を商標に付加しただけでは、著名商標と区別するには不十分であることをClarisse Merdyが解説する。
1956年に設立された OMVはオーストリアの主要企業として高い評価を得ている。2021年8月、OMVは、Combe International LLC(以下、Combe)が女性用の衛生用品を含む第3類と第5類の非医薬品を指定して登録した欧州商標「OMV! By Vagisil」(登録番号017980289)に対し、無効審判を請求した。
OMVは、自社の先行する欧州商標(登録番号000221598、000221606:下図参照)を根拠に、Combeの登録商標「OMV! By Vagisil」に対して、以下の理由で無効を主張した。
* 先行商標の信用・名声への棄損(第4類の商品と第37類、第40類の役務に限定):欧州連合商標規則 (EUTMR)第8条第5項と第60条第1項(a)に基づく主張
* 第1類、第4類、第37類、第40類における先行商標と混同のおそれ:EUTMR第60条第1項(a) と第8条第1項(b)に基づく主張

しかし、EUIPO(欧州連合知的財産庁)取消部はOMVの主張を認めず、両商標の関連性を否定した。
二次的要素によって商標の関連性を消し去れるか?
取消部の決定を受け、OMVは不服申立てを行ったが、第4審判部も無効請求を棄却した。その理由は次のとおりである。
* 争われた商標が指定する商品・役務は類似しておらず、EUTMR第8条第1項(b) の意味における混同のおそれは排除される。
* 商標間には「中程度」の類似性が存在し、OMVの先行商標がオーストリアにおいて高い名声を有することを認めつつも、商品の性質および市場の相違から、商標間に関連性を認めることはできない(EUTMR第8条第5項)。
審判部は、このような関連性が存在しない以上、争われた商標の使用が、OMVの先行商標の名声または識別力を不当に利用したり、損なったりするおそれはないと結論づけた。
もっとも、この決定は、異なる市場分野に商標保護を広げる際にEUIPOが慎重姿勢を取ることを示している。しかしOMVはEUIPOの決定を受け入れず、EU一般裁判所に上訴し、商標間に関連性が存在することの認定を求めた。
OMVは、EUIPOが「商品・役務の非類似性に決定的な重みを置いた」と批判し、争われた商標と著名な先行商標との関連性の有無を判断する際には、すべての関連要素を考慮すべきであると一般裁判所に主張した。
わずかな類似性の評価の重要性
形勢は逆転した。一般裁判所は、主として判断の誤りを理由として審判部の決定を取消した。事案の核心は両商標の類似性評価にあった。なぜなら、
* EUTMR第8条第1項(b)(混同のおそれ)
* EUTMR第8条第5項(著名商標の保護)
のいずれを適用する場合でも、両商標にある程度の類似性が存在することが共通の要件となるからである。もっとも両条文の相違点は類似性の程度にある。
* 第8条第1項では、高い類似性を要求
* 第8条第5項では、程度を問わず類似性が存在すれば足りる
したがって、適用の核心は、関連する需要者(本件では一般消費者)が、商標間にわずかであっても関連性を見いだすかという点にある。
一般裁判所は、争われた商標が「By」「Vagisil」(商号または商標)と「OMV」から構成されると判断した。そして審判部が、「By Vagisil」という表現により、先行する「OMV」商標との関連性が完全に排除されると判断した点を誤りとした。審判部は、この表記が商品の出所を明確に示すため、OMVとの関連性は生じないと判断したが、一般裁判所はこれを否定した。
一般裁判所は、商標の先頭に置かれ、独自の識別力を有する「OMV」こそが、両商標に共通する支配的要素であると判断し、「By Vagisil」が付されていることのみを理由として、関連性の存在を否定することはできないとした。この関連性こそが、名声条項(第8条第5項)の適用のための前提要件である。
「卓越した著名性」という概念
先行商標の著名性(審判部も否定していない)について、一般裁判所は判例により形成された重要概念である「卓越した著名性」を強調した。これは、先行商標が自らの指定商品・役務に関係する需要者層(本件では第4類、第37類、第40類)を超えて広範な知名度を有することを意味する。
一般裁判所は、OMVがこの卓越した著名性を証明したと認定した。提出された資料には、企業名の認知度に関する調査(業種を問わず)が含まれており、「OMV」の名称は一般消費者の96%が認知していた。この資料は「OMV」商標がオーストリアの一般消費者に最も知られた商標であることを裏付け、関連業界以外の著名商標をも上回る知名度を示していた。
この卓越した著名性は、商標の識別力を強化する要素としても作用し、その識別力は高いと評価された。
商品・役務の比較と言及された「共通流通経路」
商品・役務の比較は、商標間の関連性を評価する上で重要な要素である。
本件では、商品・役務が補完関係にないこと、用途・性質・販売場所・製造者等が「根本的に異なる」ことは否定されていない。しかし一般裁判所は、両社の流通経路に重複の可能性がある点(すなわち、争われた商標が付されたパーソナルケア製品が、サービスステーション(ガソリンスタンド)でも販売され得ること)に注目した。
「by」の付加では著名商標との関連性を回避できない
以上の要素に基づき、一般裁判所は「OMV! By Vagisil」事件で、著名商標には広範な保護が及び、本来の事業分野から大きく離れた分野にもその効力が及び得ることを改めて確認した。
一般裁判所は、「By Vagisil」という二次的要素を追加するだけでは、先に置かれ高度に識別力を有する「OMV」という要素を希釈したり、これとの関連性を断ち切ったりすることはできないと明言した。
一般裁判所の判決は、EUTMR第8条第5項の適用条件を再確認する機会にもなった。
* 先行商標(著名性が主張されるもの)が登録されていること
* 係争商標が同一または類似(程度は問わない)であること
* 先行商標が EU(EU商標の場合)や当該加盟国(国内商標の場合)で著名性を有すること
* 正当な理由なく争われた商標が使用されることで、先行商標の識別力または名声から不当な利益が得られる、またはそれらに損害が生じるおそれがあること
本件の核心は、卓越した著名性の認定にある。先行商標が指定商品・役務の需要者層を超えて広範な認知度を有する場合、この卓越した著名性は、商標権者が本来の市場を超えて使用を差し止めるための強力な法的手段となる。
一般裁判所は、関連公衆がわずかでも関連性を認識し得るならば、二次的要素を付加したからといって、著名商標の識別力が低下することはないと判示した。本判決は、EUTMR第8条第5項に基づく制度の抑止機能を再確認させるもので、卓越した著名性を有する商標にとって、その識別力の寄生的な利用を防止し得ることを示すものである。
本文は こちら (Adding ‘by’ is not enough to supplant a link with an exceptionally well-known trademark)
