フランスの多国籍自動車メーカー、ルノーは、デジタル環境において使用するため、デザイン性に優れた新たな活字書体を開発し、商標登録を試みた。

大手ブランドにとって、識別性のある外観的アイデンティティは不可欠であり、特注の活字書体はその中で重要な役割を果たし得る。ルノーは、新たな活字書体を欧州商標として登録しようと試みたが、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、この出願商標の登録を拒絶した。その理由は、当該商標が識別力を欠くという点にあった。すなわち、関連する需要者はこれを商業的出所としてではなく、単なる活字記号の集合として認識するにすぎないと判断されたのだ。
識別力要件は、ブランド名称やロゴではない商標にとって、特に高いハードルとなる。本件においてEUIPOは、文字・数字・記号のフルセット(一揃い)に接した消費者は、それを商標として認識しないと判断した。EUIPOは、このデザインについて、あまりに一般的であり、かつ構成が複雑すぎるため、商標として機能し得ないと結論付けたのだ。
では、新たな活字書体はいかなる形でも保護を受けられないということになるのであろうか。結論としては、決してそうではない。但し、保護の手段は商標ではなく、意匠に求められることになる。
意匠は、製品の外観、すなわち文字や記号の具体的な形状といった外観的特徴を保護するものである。この点において、意匠による保護は極めて有効な代替手段であり、かつ迅速かつ実効的でもある。
さらに、商標と異なり、登録に際して特定の商品・役務を指定する必要がないという利点もある。意匠は、基礎となる製品の種類にかかわらず、外観的形態そのものを保護対象とするからである。
