ある朝、東南アジアでの展開計画を進めていた米カリフォルニアの企業は、ベトナムの知財法律事務所から、思いがけない「(侵害行為の)中止通告書(cease-and-desist letter)」を受け取った。驚くべきことに、中止通告書には、同事務所のローカルクライアントがベトナムにおいて当該企業のブランドを既に保有しているとの主張と法的措置を示唆する内容が書かれていた。このような事態はたまたま起こったことではない。スポーツ業界での最近の例では、スクワッターが同様の紛争を「解決」する対価として、Tilleke & Gibbinsのクライアントに48,000米ドル超の要求をした事例もある。
ベトナムに参入しようとする、あるいはベトナムで流通を拡大しようとするブランドにとって、こうした行為は、市場の勢いがまさに形成されつつある重要な局面で重大なリスクを生じさせる。ベトナムの急速な経済成長と、国際貿易への一層の統合は、多国籍ブランドにとってベトナムをますます魅力的な進出先としてきた。しかし、同じ力学が、長年指摘されてきた問題、つまり商標スクワッティングを一層深刻化させてもいる。
過去10年でベトナムは知財制度を近代化してきたが、その厳格な「先願主義」商標制度は、商標に正当な利害関係を持たない者による便乗的な商標出願を依然として誘発している。特に、多くの外国ブランドがまず海外で評判を築き、その後ベトナムを検討するという状況では、スクワッターはタイミングや法執行上の隙間を常に注視している。
先願主義:利点と脆弱性
ベトナムは、知的財産法の下、先願主義の原則を厳格に採用している。実務上、ベトナムで商標を独占的に使用する権利は、ベトナム知的財産庁に対して最も早く有効な出願を行った人に帰属し、国内での先使用の有無は問われない。このアプローチは、証拠負担を軽減し、使用主義の法域と比べて行政上の明確性を提供する。しかし同時に、スクワッティングが発生しやすい土壌も形成している。
悪意ある出願人は、外国市場を常時監視し、勢いを増しているブランドを見つけると、真の権利者が市場参入するよりも、あるいは現地出願をするよりも前に、その商標を国内で出願する。すると、真正ブランドが保護を求める段階で、スクワッターの出願(または登録)商標が法的障害として立ちはだかり、企業は多額の費用を伴う異議申立て、取消請求、あるいは「自社の商標を買い戻す」という不本意な交渉に追い込まれかねない。
ベトナムの知財制度は一定の改善を重ねてきており、2022年知的財産法改正では「悪意」の認識が強化されたものの、正当な権利者に課される立証負担は依然重い。悪意を示すには、出願人が商標を正当に使用する意図を欠いていた、または不当な動機で出願したという証拠が必要であるが、スクワッターが最低限の「使用」ストーリーを事前に準備していた場合、短期間で不正の証拠を収集することは難しい。
先願主義の制度構造から実務的障害が直接生じる。異議申立てや取消手続は時間と費用がかかり、問題の登録商標は手続進行中も有効なままとなることが多い。先使用権(prior rights)は限定的にしか考慮されず、「周知商標」として認定されない限り、法的重みは極めて弱い。しかし、この「周知性」をベトナムで立証するのは、困難かつ予測不能である。市場投入の緊急性がある場合、ブランド・オーナーは、法理上は悪意の行為者に報いるべきでなくとも、和解に傾かざるを得ないこともある。
これらの事情は、早期出願、厳密なモニタリング、証拠収集戦略の体系化が不可欠であることを強調している。
ベトナムにおける一般的な商標スクワッティング手法
ベトナムの商標スクワッターは、単純なものから高度なものまで、広範な手口を用いる。著名ブランドから新興ブランドまで外国の商標を先回りして出願したり、登録性を確保しつつ交渉材料としての価値を維持するための類似標章を出願したりする。権利者がしばしば見落としがちな外観的な資産(ロゴの図案化、トレードドレス、特徴的なパッケージなど)を標的にすることもある。
また、同じドメイン名の登録、現地法人の設立、形だけのライセンス契約や販売代理店契約の締結、簡易的なウェブサイトの立ち上げ、サンプル請求書の発行、あるいはオンラインでの商品展示などを行うことによって、商業活動の実態を偽装するスクワッターも多い。 最近では、AIが生成した画像を使ってこれらの資料を補強し、あたかも「商取引における使用」があるかのように捏造するケースも増えている。
また別のケースでは、現地の販売代理店、再販業者、または製造代理店が、交渉を有利に進めるための交渉材料として、あるいは関係が悪化した際に主導権を握り続けるために、本来の権利者の商標を自分たちの名義で登録しようとする試みも見られる。
法的執行の姿勢:断固拒否か商業的解決か
経験上、ブランド・オーナーはしばしば戦略的な岐路に直面する。
ある企業は断固拒否の姿勢を取り、悪意に基づく出願であることを理由に争い、行政的または民事的措置を進め、市場監視や税関措置を組み合わせて反撃する。このような柔軟かつ証拠主導型の戦略によりスクワッターを無力化し、企業が身代金のような不当な要求に屈することなくブランドの支配権を回復するための支援も行われてきた。
他方で、上市のタイミングが極めて重要で、製品発売が目前に迫っている場合、あるいはサプライチェーンがすでに稼働している場合には、たとえ不本意であっても商業的解決策が確実性を得るための最も費用対効果の高い道となることもある。
適切な判断は、ビジネス上の優先事項、訴訟リスクの許容度、証拠の状況、並行して行使できる圧力手段の有無といった具体的要素によって左右される。悪意の出願と戦うための法的手段は存在するものの、時間を要し結果が不確実な場合も多い。
最も確実な防御策は、先回りした積極的な行動にある。すなわち、早期かつ広範な出願、継続的で厳格なモニタリング、評判と使用の証拠保存、そして悪意・不正競争に基づく主張を戦略的に組み込んだ権利行使計画の構築である。早期出願と強力なモニタリングを基盤とした規律ある意思決定フレームワークこそが、どの道を選ぶにせよ選択肢と交渉力を確保し、ベトナム市場におけるブランド価値の保護と市場の勢いの維持に最も有効な方法である。
本文は こちら (Trademark Squatting in Vietnam Poses Growing Challenge for Brand Owners)
