ディープフェイクは、エンターテインメント業界において著名人の外見に化体した営業上の信用(グッドウィル)やブランド・アイデンティティに対する現実的かつ深刻な脅威となり得るものだ。
この分野における商標法の役割は、いまだ明確に確立されていない。しかしながら、既に個人が自身の外見、表情、あるいは行動様式の一部を商標登録によって保護しようとする動きが見られる。例えば英国で、プレミアリーグのサッカー選手であるコール・パーマーが、自身のニックネーム「コールド・パーマー」や特徴的な「腕をさする」ゴールパフォーマンス(コールドセレブレーション)を動き商標として登録したほか、自身の顔を図形商標として登録した事例がある。
このような出願の目的は、需要者が特定の個人と結び付けて認識する、よく知られた外見、表情、または動作について独占的権利の獲得や関連する営業上の信用を第三者が許可なく利用することを防止する点にある。また同時に、外見や行動様式といった要素の経済的価値を高め、自身がそれらを適切に活用できるようにすることも目的とされている。
アカデミー賞受賞俳優のマシュー・マコノヒーが、米国において、第9類と第41類の商品・役務(「俳優および著名人によるライブ・パフォーマンスおよび出演(personal appearances)といった性質を有する娯楽サービス」を含む)を指定した動き商標と音商標を米国特許商標庁(USPTO)に登録したとの報道があった。
登録された商標は以下のとおり;
* 第9類と第41類で、「just keep livin’ right, I mean what else are we gonna do?」と発話するマシュー・マコノヒーを撮影した7秒間の動画を内容とする動き商標
* 第9類と第41類で、「alright, alright, alright」と発話するマシュー・マコノヒーを撮影した3秒間の動画を内容とする動き商標。これは、リチャード・リンクレイター監督作品「バッド・チューニング(原題: Dazed and Confused)」におけるマシュー・マコノヒーの役柄に由来する有名な台詞である
* 第41類で、「alright, alright, alright」と発話するマシュー・マコノヒーの音声から成る音商標
動き商標には、商標の説明が付されており、マシュー・マコノヒーの外見、服装、周囲の環境、ならびに頭部と身体の動きが詳細に記載されている。一方で、発話されている言葉自体については、明示的な言及はなされていない。これに対し、音商標の出願には、発話されるフレーズについての説明が付されている。
動き商標の説明では、動画内で発話されている言葉が明示的に特定されておらず、これらの出願は、俳優が自身の外見および演技スタイルそのものを商標登録によって保護しようとする試みであるように見受けられる。これらの出願が英国において登録を認められるかについては疑問が残る。というのも、動画に登場する人物の著名性を超えて、独立した識別力が存在するかどうかが明確ではないからである。実際、動画内の行動そのものに、特段の識別力のある動きが存在するとは言い難い。英国においてであれば、代替的なアプローチとして、俳優の静止画像を出願する方法も考えられたであろう。
一見すると、米国における音商標登録は、俳優の声そのものや話し方及び表現方法に独占的権利を与えるものではなく、特定のスタイルで発せられる当該フレーズに対する排他性を付与するものと理解される。
これらの登録商標を第三者に対して権利行使できる範囲は、比較的限定的であると思われる。しかしながら、理論上は、俳優のディープフェイクを用いた第三者の商業的利用や、「alright, alright, alright」というフレーズを同一のスタイルで使用する行為を差し止める根拠とされ得る。また、マシュー・マコノヒーの声や肖像を制作物や広告コンテンツで使用したいと考える制作会社や広告主に対し、ライセンス供与を行うことも可能であろう。
この分野は知的財産法における成長領域であり、個人の肖像や、外見、声、動作、あるいはよく知られたフレーズといった人格的要素について独占権を主張しようとするエンターテインメント業界の関係者は、適切な出願戦略について商標弁護士の助言を求めるべきである。
本文は こちら (Deepfakes and trade mark law – talk to a trade mark attorney to avoid being Dazed & Confused…)
