欧州知的財産庁(EUIPO)の拡大審判部(Grand Board of Appeal)に現在係属している「Johannes Hendricus Maria Smit 対 EUIPO」事件は、人格権、ブランディング戦略とEU商標法が絡み合う問題を提起している。すなわち、「人間の顔の写実的画像は、商標として機能し得るのか」という問題である。間もなく下される判決は、非伝統的商標の登録性に関する近年の判断の中でも、極めて重要なものとなる可能性がある。
背景
オランダの歌手・テレビ司会者のヤン・スミット(Jan Smit)氏は、2015年10月23日に自身の顔の高解像度画像からなる図形商標を登録出願した。指定商品・役務は、9類、16類、24類、25類、35類、41類にわたる広範なもので、録音物、印刷物、テキスタイル、衣類、広告、ライブによる娯楽の提供などが含まれていた。
当該画像は、様式化や抽象化がなされていない、スミット氏本人の写実的画像そのものであった。
この点において、本商標の本質が(スミット氏を知る者にとって)識別可能なスミット氏本人そのもので構成されていることは、登録簿で通常見られるようなロゴやモノグラム、あるいは著名人の似顔絵とは著しく一線を画していた。

審査
2023年12月19日に下された決定において、EUIPO審査部は本商標の登録を拒絶した。審査官は、本商標はEU商標規則(EUTMR)第7条(1)項(b)に基づき自他識別力を欠き、かつ同条(1)項(c)に基づき記述的であるとの判断を示した。
EUIPOは、特段の識別的な様式化や文字要素を伴わない人物の顔の写実的な画像は、平均的な消費者にとって単なる装飾的または宣伝的な特徴として認識されるに過ぎず、出所表示としては認識されないとした。
審判
スミット氏は、この拒絶決定を不服として審判請求した。控訴審で同氏は、オランダのファッションモデルであるマールチェ・フェルホーフ(Maartje Verhoef)氏の写実的画像が登録を認められた著名な事例を含む、EUIPOの過去の判断を引用した。また、自身の画像は写実的ではあるものの、指定商品・役務に関連した長年の商業的使用を通じて識別力(使用による識別力)を取得しているとも主張した。
拡大審判部へ付託
審判部は、画像ベースの商標に対するEUIPOの判断に一定の不一致があることを認め、2024年9月26日、本件を拡大審判部に付託した。付託の理由は、法的不確実性の解消およびこの種の商標に適用される基準の明確化の必要性であった。
本件では、EUTMRの以下の3つの規定が課題となる;
* 第7条(1)項(b): 識別力を欠く商標の登録拒絶
* 第7条(1)項(c): 商品・役務の特性を表示する目的で用いられる表示のみからなる商標の登録拒絶
* 第7条(3): 使用により識別力を獲得した商標に対する例外規定
拡大審判部は、本来的識別力の閾値だけでなく、個人の肖像という文脈における「使用による識別力」の立証要件についても指針を示すものと期待されている。
スミット氏は、当該画像は明らかに本人として認識可能であり、特定の加盟国内では自身の商業的成果物と密接に結びついていると主張している。すなわち、本商標は一般的なものではなく個性的かつ特定的であり、「既にブランドとして機能している顔」であるという主張である。
代理人は、この画像が長年にわたりアルバム、宣伝資料、ライセンス商品、各種広告キャンペーンに使用されてきたと述べた。関連分野において、公衆は既にこの画像を商業的な出所表示として認識していると論じたのである。さらに、審査部による識別力の解釈は過度に形式主義的かつ硬直的であり、同様に写実的な画像を含む過去の登録例に照らして不当であると反論した。
INTAの意見書
2025年1月、国際商標協会(INTA)は出願人を支持する第三者意見書を提出した。INTAは、人間の顔の写実的な描写は、本質的に商標として機能する能力を欠いているわけではなく、実際に機能するか否かは、当該商標の実際の使用状況や市場での認識を考慮し、個別に判断されるべきであるとした。
また、INTAは肖像写真を登録可能性から一律に排除するような包括的なルールの策定に警鐘を鳴らした。代わりに、識別力の法的基準と、現代のパーソナル・ブランディングという商業的現実とのバランスを取る、よりきめ細やかな枠組みを求めた。
本件は、EU商標法におけるいくつかの未解決の問いを提起している;
1. 自然主義的な人間の顔は、様式化することなしに本来的識別力を有するとみなされ得るか?
2. EUの一部における認識は、使用による識別力の確立に十分か?
3. 個人の肖像が商業的な出所表示として扱われるためには、どの程度の知名度や名声が必要か?
4. EUIPOは、肖像権に関わる出願を導くための、より明確な法理(ドクトリン)を構築すべきか?
これらの問いへの回答は、エンターテイナーや公人だけでなく、個人のイメージをブランド価値の源泉とするスポーツ選手やインフルエンサーにとっても、長期的な影響を及ぼすことになる。
その頃、海を隔てた隣国では
EUが顔ベースの商標に対して慎重な姿勢を保ってきた一方で、他の法域ではより柔軟な対応が見られる。米国では、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースの画像が古くから商標として登録されている。英国では、関連する公衆のかなりの部分が出所表示として認識するかどうかが依然として判断基準となっている。いずれのケースでも、様式化は有用ではあるが、必ずしも不可欠ではない。
例えば、英国知財庁(UKIPO)は、コール・パーマー(Cole Palmer)氏の顔の商標について、広範な指定商品で登録を認めている(UK00004129121参照)。
拡大審判部のような信頼ある権威による判決は、理想的には同一の問題に関する法域間の調和を促進するだろう。例えば、顔の画像が一般的である分野において、消費者がそれを単なる装飾ではなく「出所のしるし(badge of origin)」として読み取るためには、その顔の商標が通常の態様からどの程度著しく乖離している必要があるかといった、より明確なガイドラインが示される可能性がある。
著名人の顔であれば識別力を有する可能性は高いが、パーマー氏の極めて広範な指定商品は、本人の知名度が及ぶ範囲を超えているとして、使用による識別力が必要となる可能性がある。これは出願戦略上の問題を提起する。「顔」の商標は密接に関連する分野のマーチャンダイジングに限定されるべきか、またその適切な基準とは何か。例えば、デビッド・ベッカム氏の顔はサッカー関連グッズにのみ登録可能なのか、あるいはマーチャンダイジングが当然にカテゴリーをまたぐものである以上、より広い範囲で認められるべきなのか。そして、ここでも「SkyKick原則」が適用されるのか、すなわち、真正な使用の意思がない過度に広範な指定商品を含む出願は「悪意」による不当出願として脆弱性を抱えることになるのか。サッカー選手の顔が、そのスポーツと関連の薄い商品(例:オーディオ機器のスペアパーツ)を促進することはない、というのは自明の理なのだろうか。
結論
EUにおける明確な判決は、EU内での先例となるだけでなく、英国を含む他の法域に対しても説得力のある権威となるため、歓迎されるだろう。今回の決定は、拡大審判部が他法域の寛容な実務(寛容ではあるが詳細なガイドラインは欠いている)に歩調を合わせるのか、あるいは法的確実性の必要性を再確認し、より保守的なアプローチを取るのかを決定づける。2026年末までには、この分野の法理がさらに大きく発展していることが期待される。
