日本の光学機器、映像機器および産業機器メーカーとして広く知られるキヤノン(Canon)は、25年以上前にカメラおよび印刷関連機器を携えてロシア市場に参入し、その製品品質の高さにより人気を博した。フィンランドにおける子会社を通じた慎重なマーケティング戦略を基盤として、キヤノンはロシアへと事業を拡大し、現地子会社であるキヤノン・ロシアを設立した。
長年にわたり、キヤノンは特段の問題なくロシアへ製品を供給していた。しかし2022年春、ウクライナ紛争の影響でロシアにおける事業を一時的に停止した。
その時点で、キヤノンはロシアにおいて複数の商標(登録番号28129、58987、314678、320959、375851)を第9類に登録していた。

周知のとおり、ロシア法上、商標が3年間不使用である場合、利害関係人はその取消しを請求することができる。ここでいう「利害関係人」とは、当該商標の取消しについて適法な利益を有する者を指す。かかる利害関係人は、単に当該商標が登録されている商品に表示する目的のみならず、類似商品についても使用する意図を有していなければならない。外国企業がロシア市場から撤退した際、市場から去った企業に帰属する商標に類似する商標を登録しようとする「利害関係人」による試みが多数見受けられた。
ロシア企業であるStroyresurs Ltd.(以下、「Stroyresurs」)は、2022年に第9類の商品を指定して商標出願(図1:第2023739712号)を行い、時機を見て既存の商標を取消すことを企図していたことは明らかであった。

1年後、特許庁は、Stroyresursの出願商標がキヤノンの商標に類似している旨通知を発出した。Stroyresursは当初の計画に従い、キヤノンの商標に対し不使用取消を請求した。法が要求する利害関係を立証するため、Stroyresursは「CANON」表示を付した電子錠の予備的供給契約、試作品開発に関する共同契約、作業指示書その他を提出した。これらの資料に基づき、原告は、機械式錠、電子・電気式錠およびビデオ監視(eye viewers)について商標を取消すことができる利害関係人に該当すると主張した。
これに対してキヤノンは、原告に真の取消理由は存在せず、むしろ著名商標と同一の商標を登録し、周知企業の名称を模倣する意図に基づくものであると主張して取消請求を争った。すなわち、原告はキヤノン商標の人気に便乗し、需要者を混同させ、市場における自社商品の販売促進に不当な優位を得ようとしていると主張したのである。
キャノンの商標は、長年にわたる使用により一般的に周知となっており、特にカメラ、プリンター、スキャナーその他の商品について広く認識されていた。
裁判所は、原告が2024年1月にキヤノンに対し商標を放棄するよう求める提案書を送付していたが、これに対する回答はなかったことを認定した。かかる書簡は法律上の形式的要件に該当するものである。
裁判所は、錠、ビデオ監視その他の製品について当該商標(図1)を付した試作品開発のための予備契約が存在したこと自体は認めた。しかしながら、当該契約は商標放棄の提案書送付後に締結されたものであり、提案時点以前に原告が当該商標について利害関係を有していなかったことを意味すると判断した。商標の取消しを求める場合、原告は、係争商標が登録されている商品(すなわち電子機器)に関する販売活動に関連して何らかの具体的行為を行っていることを示す証拠を提出しなければならない。利害関係の欠如は、それ自体が取消請求を棄却する正当な理由となる。
裁判所は、出願商標(図1)とキヤノンが保有する登録商標314678号(図2)との比較を行い、両商標間に高度の類似性が存在すると認定した。また、日本企業から提出された情報も考慮した。公開アンケート調査によれば、回答者の96%が当該商標を認識しており、66%がカメラ、付属品およびレンズに使用されていると回答し、37%が充電器に使用されていると回答した。これら関連商品はいずれも日本企業と結び付けられている。多くの人々が長年にわたり「CANON」の名称を知っており、その製品を購入・使用してきたのである。
さらに、回答者の53%は、出願商標(図1)と登録商標(図2)は同一名称の異なるバージョンであり、同一企業に帰属し、当該表示を付した商品はキヤノンまたはその許諾・ライセンスのもとで製造されていると認識していると回答した。
裁判所は、日本企業が長年ロシア市場に存在してきたことにより、ロシアにおいて広く知られていると結論付け、双方の主張を総合的に考慮した結果、ロシア企業の取消請求を棄却した。
なお、その1年前には別の訴訟が存在した。Stroyresursは第6類の登録商標第90917号についても取消しを求め、金属および非金属ケーブル、金庫、ワイヤーに関する「CANON」商標の取消しに成功していた。この成功に味を占め、キヤノンの他の商標すべてを剥奪すべく攻勢をかけたが、本件では失敗に終わった。
結論として、原告は利害関係を立証できなかったため、キヤノンの商標取消に失敗した。しかし、これにより商標が100%安全となったことを意味するものではない。商標を攻撃し、他国で製造した製品に商標を付して販売する不透明な企業も存在する。ロシア市場から撤退した一部企業は、3年の不使用期間を更新するために再出願を行っている。もっとも、企業が市場復帰を望まない場合であっても、権限ある代理人を通じて一定数量の商品を販売し(形式的使用との非難を回避しつつ)不使用期間を中断させることが、商標維持の最善策であるといえる。この方法は商標権保護のためのコストを抑制するのみならず、一定の収益を企業にもたらし得る。
