知的財産紛争は、当初技術的な意見の相違にすぎないものでも、複数の権利や手続が絡み合うことで複雑化し、高コスト・高リスクの訴訟へと発展することがある。本件は、理学療法方法「TRI-MOOBIL療法」の発明者Dr. Vargaと、機器を製造していたMoWo Medical S.L.との紛争であり、EUIPO調停仲裁センターの調停がその解決に重要な役割を果たした例である。発端は製造品質をめぐる問題であったが、メーカーが機器を再設計し「MoWo TMB」として販売したことで対立が激化した。発明者は特許権侵害や商標権侵害を主張し、これに対してメーカーは特許無効や商標取消を求める反訴を提起した。さらに、EU商標「TMB」が一般名称化したとする欧州連合知的財産庁(EUIPO)での取消手続も並行して進行し、紛争は複数の管轄に分散した。
このような状況の中でEUIPO調停仲裁センターが調停を提案した。調停開始時は、当事者間の信頼関係は低く、発明者が自身のイノベーションが不当に利用されたと感じ、メーカーは事業上の必要性と法的リスクの間で板挟みになっていた。そこで調停人は、まず法的主張の優劣を論じるのではなく、コミュニケーションの回復に焦点を当てた。個別面談や合同セッションを通じて双方が不満を表明できる環境を整え、非難を根本的な利害へと整理した。その結果、発明者側の「保護と評価」への関心と、メーカー側の「法的確実性と市場アクセス」への関心が明確になった。また、訴訟が長期化する可能性や費用・結果の不確実性について現実的な検討が行われ、当事者の関心は対立的な請求の追及から実行可能な解決策の模索へと移行した。
最終的に、調停により包括的合意が成立した。メーカーは契約紛争解決のため一括金を支払い、発明者は改良型機器について非独占的特許ライセンスを付与し、売上に応じたロイヤルティが支払われることとなった。特許無効主張は取り下げられ、「TMB」商標について記述的使用のための限定的なライセンスが設定された。これにより国内およびEUにおけるすべての手続が終了し、知的財産権の維持、継続的収益、法的確実性が双方にもたらされた。
本件は、EUIPO調停仲裁センターにおける調停が単なる和解手段ではなく、対話の回復と利害調整を通じて柔軟で当事者主導の解決を実現する仕組みであることを示している。複雑化した知的財産紛争において、調停は訴訟では得がたい包括的かつ実務的な解決を可能にする点で意義がある。
原文は こちら (From Conflict to Recovery: ‘Healing’ IP disputes with Mediation)
