2026-03-03

EU:CJEUが判示した異議申立てにおける新たな「決定日」ルール - Marks & Clerk

要約
2026年2月5日、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、EUIPO 対 Nowhere(C-337/22 P)事件において、EUIPO(欧州連合知的財産庁)における異議申立手続に関し、次の点を確認した。すなわち、異議申立てにおいて援用される「先行権利」は、争われているEU商標の出願日又は優先日より前に成立しているだけでは足りず、EUIPOの最終決定日においてもなお有効な権利として存続していなければならない、というものだ。

本件は、ブレグジット移行期間終了後の英国におけるコモンロー上の権利をめぐる事案であったが、その判示理由はEU商標全体に一般的に適用されるものである。CJEUは、異議申立てにおいて依拠された先行商標が、EUIPOの決定前に失効し、取消され、放棄され、又は加盟国法若しくはEU法の下での権利を喪失した場合には、たとえ出願日時点では瑕疵のない有効な権利であったとしても、異議申立ては認められないことを明確にした。

事案の概要
2015年6月30日、出願人のJunguo Ye氏は、図形商標「APE TEES and Monkey Device」(出願番号014319578)について、区分3、9、14、18、25および35に属する商品・役務を指定してEU商標出願を行った。この出願は2015年12月9日に公告された。

2016年3月8日、Nowhere Co. Ltdは、これに対して異議申立てを行い、英国において使用されていた3件の猿の未登録図形標章に基づく権利を主張した。異議申立て時点において、英国のPassing Off(詐称通用)に基づく未登録の権利は、EU商標規則(EUTMR)第8条第4項に基づく有効な先行権利に該当していた。

異議部および一般裁判所の判断
当初、EUIPO異議部は、決定時点ではブレグジット移行期間が既に終了しており、英国法はもはや「加盟国の法律」ではないとして異議申立てを棄却した。すなわち、英国のPassing Offに基づく権利は、もはやEUTMR第8条第4項に該当せず、EUIPOが決定を下す時点において異議申立の根拠とすることはできないと判断した。
その後、審判部も同様の理由により上訴を棄却し、2020年12月31日以降は、英国のみに基づく権利はEUにおける異議申立てで有効な権利を構成しないと判示した。

これに対し、一般裁判所は2022年3月16日、審判部の決定を取り消した。一般裁判所は、先行権利の存否を判断すべき基準時はEU商標の出願日であるとし、出願日時点では英国は依然としてEU加盟国であり、Passing Offに基づく未登録権利はEUIPO異議制度の下で十分に認識可能な権利だと判断した。その後、本件はCJEUに上訴された。

CJEUの判断とその理由
CJEUにおける明確な争点は、先行権利は「決定時」に有効であることを要するのか、それとも「異議申立時」に有効であれば足りるのか、という点であった。
CJEUは一般裁判所の判決を破棄し、EUIPOの当初決定を支持した。CJEUは、EUTMR第8条第4項(さらに言えば登録商標を含むあらゆる先行権利)には、二つの時間的要件が内在すると判示した。
1. 先行権利は、争われているEU出願の出願日又は優先日より前に取得されていなければならない
2. さらに重要な点として、当該標章は、EUIPOの最終決定日まで、「使用を禁止する権利を付与する(confer)」ものでなければならない(現在形)。

CJEUは、属地主義の原則を根拠に本判断を基礎づけ、政策的観点から、異議申立制度の目的は、二つの執行可能な権利の併存を防止することにあると明確にした。したがって、先行権利がEU法の下で消滅した場合には、もはやそのような併存状態は存在しないことになる。
CJEUはNowhere社の請求を棄却し、EUIPOの当初の立場を是認した。

本判決の意義:ブレグジットおよびPassing Offを超えて
一見すると、本件は登録商標の確保が戦略的にいかに重要であるかを示す典型例のように思われる。確かに、異議申立人がその猿図形をEU域内で登録していれば、未登録権利を主要な根拠として立証する必要はなく、より強固な立場に立てたであろう。

しかし、本判決の含意はブレグジットという特殊事情を超えて広がる。CJEUは事実上、先行権利の有効性を評価する決定時点を、異議申立時からEUIPOの決定時へと移行させた。手続の進行中に取消され、無効とされ、放棄され、その他消滅した先行権利は、たとえ異議手続開始時には有効であったとしても、もはや異議の根拠にはなり得ない。

実務上、本判決は、特に不使用取消の猶予期間(5年)の終了が近い先行権利に基づいて異議申立てがなされた場合、登録後取消請求の活用を一層促す可能性があると考えられる。さらに重要なのは、EUにおける異議手続が通常数年を要することを踏まえると、異議申立時に登録がまだ5年の不使用猶予期間内にあるというだけでは、もはや安全であるとはいえないという点である。 
本判決は、EUIPOの異議手続における時間的リスク評価を根本的に再構成するものだ。

本文は こちら (CJEU NOWHERE Decision: Monkey Business and the new “Decision‑Date” Rule for Earlier Rights in EUIPO oppositions)