2026-04-03

タイ:知的財産に関する刑事手続で損害賠償を回収しやすくなった最近の傾向 - Tilleke & Gibbins

数十年にわたり、タイ市場から模倣品を排除しようとする知的財産権者は、主として刑事摘発(レイド)に依存してきた。これは侵害品を押収し、侵害者に責任を問うための手段である。このアプローチの抑止効果は、一般に次の三つに整理される。すなわち、
* 侵害者に刑事責任を負わせること
* 模倣品を市場流通から排除すること
* 違反者に対して懲役刑および罰金刑を科すこと

しかしながら、これらの結果は、ブランドオーナーのより広範な目的を必ずしも十分に達成するものではないことが多い。多くの場合、訴追の対象となるのは、侵害行為を実質的に指揮している主体ではなく、単なる従業員や仲介者にすぎないからだ。また、科される罰金はタイ政府に納付されるものであり、商業的損害を被り、かつ捜査や法執行当局との連携に多大なリソースを投じた権利者に支払われるものではない。

他国と同様に、タイにおいて知的財産権侵害に関する金銭的補償を求める権利者は、従来、民事訴訟を提起することによって対応してきた。このような手続を開始する前提として、ブランドオーナーは侵害行為の存在およびそれにより生じた損害の双方を立証するに足りる十分な証拠を収集する必要がある。特に留意すべき点として、タイの法律は懲罰的損害賠償を認めておらず、裁判所が認容するのは請求者が立証した実損害に限られる。押収された侵害品が存在しない場合、この種の事案で認められる損害額は通常きわめて限定的なものとなる。その結果、権利者は実際には相当程度の商業的損害を被っている可能性があるにもかかわらず、利用可能な救済手段が限定される状況に置かれてきた。

2005年、タイは刑事訴訟法(Criminal Procedure Code)を改正し、第44条の1(刑事手続における損害賠償請求に関する規定)を導入した。同条は、証拠調べ期日の前に、知的財産・国際取引中央裁判所(The Central Intellectual Property and International Trade Court)における刑事手続の中で、権利者が損害賠償請求を行うことを可能にするものである。実務上、この制度により、被害者は検察官が提起した刑事事件の中で、直接、民事上の損害賠償を求める申立てを提出することが可能だ。

タイでは、歴史的に権利者は第44条の1の利用に消極的であった。というのも、裁判所が認める補償額が、しばしばその労力に見合うものではなかったためである。しかし近年、被害を受けたブランドオーナーが第44条の1に基づき補償請求を行った場合の刑事知財手続における損害額の評価方法について、タイの裁判所の姿勢に顕著な変化が見られるようになっている。この動向はブランドオーナーに重要な利点をもたらしており、民事訴訟を提起する負担を回避しつつ、同一の刑事手続の中で損害賠償を回収することが可能になりつつある。この手続上の手段自体は以前から存在していたものの、その実務的インパクトがかつてないほど大きくなっている。

ブランドオーナーが刑事訴追で損害賠償を回収した事例
消費財の模倣品に関する最近の事案で、正規のブランドオーナーが侵害品の供給源を特定することを目的とした市場調査の実施をTilleke & Gibbinsに依頼した。この調査では、小売店舗の特定にとどまらず、流通経路の把握、上流の供給者および製造者の特定、ならびに刑事による執行処分を裏付けるに足る文書証拠および物的証拠の収集が行われた。

収集された証拠に基づき、執行当局はレイドを実施した。押収された商品は模倣品であることが確認され、その後、警察は捜査記録を検察官に送付し、検察官は刑事訴追を進めることとなった。

刑事告訴が正式に提起された後、ブランドオーナーは第44条の1に基づく権利を行使し、同じ刑事手続において被害者として損害賠償請求を行った。提出された損害賠償請求は、主として次の三つの構成要素から成っていた。
* 財産的損害および逸失利益
 タイ国内における真正品の公式卸売価格に、レイドの際に押収された模倣品の総数量を乗じることによって算定
* 評判と信用(reputation and goodwill)に対する損害
 世界的に認知されたブランドの不正使用、識別力の希釈化、消費者の混同、さらに広く消費される商品の信頼低下のおそれを反映させるための一括支払い請求
* 執行費用と法的費用
 模倣品の供給源を追跡し、証拠書類による裏付けられたレイド実施の過程で生じた調査費用および弁護士費用など

健康または安全上のリスクを伴う可能性のある消費財が関係する事案では、タイの裁判所はより高い関心を示す傾向がある。また、日常的に消費される製品やパーソナルケア製品に関連する模倣品の事案においては、裁判所は単なる商標権侵害にとどまらず、公共の広い利益による側面も配慮する。すなわち、これらの模倣品が消費者に危険を及ぼし、正規の流通チャネルに対する信頼を損なうおそれがあるからだ。

本件において、裁判所はブランドオーナーの主張を認める判決を下し、被告に対して請求額の合計のおよそ半額の支払いを命じた。執行費用については全額が認容され、評判毀損に関しても相当の損害額が認められた。このことは、模倣品がもたらす商業的および消費者への影響を裁判所が明確に認識したことを示すものである。

これは、広く消費される製品に関する事案において、タイの知的財産裁判所がより実務的に、かつブランド価値を意識したアプローチを採用しつつあることを示唆している。

ブランドオーナーにとっての戦略的権利行使
本件は、タイにおける権利行使が、単一の手続の中で刑事責任の追及と損害回収の双方を実現し得ることを示している。具体的には、タイにおいて知的財産権の権利行使を戦略的に行う企業にとって、次の四点が重要な検討事項となる。
* 調査の質
 統合的な権利行使戦略の一環として、サプライチェーンを追跡し証拠を保全し、十分に文書で裏付けられた調査を行うことは、刑事訴追およびその後の損害賠償請求の双方を強化する
* 評判毀損の立証
 ブランド価値、流通ネットワーク、品質管理体制、消費者の信頼といった要素を体系的に説明する主張に対して、近年裁判所は受容的になりつつある
* タイの刑事手続内での損害賠償請求
 第44条の1を援用することにより、別途民事訴訟を提起する時間と費用を回避し、刑事裁判の公判手続と連動する形で効率的かつ有利に損害賠償請求を進めることができる
* 消費者の安全性強調
 消費者の安全に関わる分野は、特に裁判所の注意を引く傾向にある。食品、化粧品、医薬品、パーソナルケア製品、その他日常使用製品の市場で事業を展開するブランドオーナーは、消費者リスクが立証可能な場合、より強い損害評価の恩恵を受ける可能性がある

タイにおける権利行使手段を検討する国際的なブランドオーナーは、知的財産侵害がもたらす経済的損失およびその影響に対して、タイの司法がより深く関与するようになっている点に留意すべきである。知的財産裁判所の専門性は従来から強みとされてきたが、このさらなる発展は、タイの裁判所が単に侵害者を処罰することに焦点を当てるだけでなく、ブランドオーナーが負担する商業的帰結をますます認識するようになっていることを示している。

このような変化の結果として、タイにおけるレイドは、もはや単なる抑止手段としてのみ捉えられるべきものではない。それらは、実際の損害回収を生み出し得る、財務的合理性を備えた権利行使手段へと変化しつつある。

実務的に言えば、十分に準備されたレイドの投資収益率(ROI)は着実に改善してきている。証拠収集を慎重に行い、戦略的に損害を算定し、手続上の手段を効果的に活用することにより、権利者は、単一の手続の中で刑事責任の追及と実質的な金銭的救済の双方を達成することが可能となっている。これは、タイにおける知的財産権の権利行使が、商業的視点に立脚し、ブランド意識を重視したものへと向かうための重要な一歩である。

本文は こちら (Brand Owners Maximize ROI Through Criminal IP Proceedings in Thailand)