2025年12月10日に国会により可決され、2026年4月1日に施行されたベトナムの改正知的財産法(以下「改正知財法」という。)は、近年における知的財産法の最も重要な改正の一つである。本改正は、ベトナムで急成長するデジタル経済、電子商取引の拡大、ならびに外国投資の増加という現実に対応しつつ、国際基準への接近を図る形で知的財産制度を現代化するものであり、ベトナムが目指す全面的な経済転換にとって極めて重要な意義を有する。
商標実務家、ブランドオーナーおよび企業にとって、本改正は概して肯定的なものである。すなわち、手続の迅速化、特にオンライン上の行為に対する権利行使手段の強化、ならびに商標の商業的活用の拡充が期待される。他方で、より厳格な要件の導入や、事前の積極的な準備の必要性も伴う。以下に改正知財法における商標関連の主な変更点を概説する。
審査期間の大幅短縮および早期審査制度の導入
改正知財法の下では、法定期間が顕著に短縮されている。
* 商標の実体審査期間は、(公告日から)従来の9か月から5か月へ短縮された
* 公告期間は、2か月から1か月へ短縮された
* 新たに早期審査制度が導入され、一定の要件を満たす出願(例:現に使用されている商標、侵害の脅威に直面している商標、または政府が定める基準を満たすもの等。詳細は今後の施行規則により明確化される予定)については、最短3か月で実体審査が行われ得る
* 異議申立期間は、公告日から5か月が3か月へ短縮された
これらは、おそらく本改正の中でも最も歓迎される変更点である。ベトナム知的財産庁は、長年にわたり審査遅延の問題について批判を受けており、商標登録に18~24か月以上を要することも少なくなかった。新たな期間設定は、ベトナムの制度をより効率的な水準へと近づけるものである。特に早期審査制度は、電子商取引プラットフォーム上での模倣品対策など、高付加価値または緊急性の高い案件において極めて有用である。
もっとも、早期審査の適用を最大限活用するためには、出願当初から瑕疵のない申請書類を整備することが不可欠である。また、短縮された異議申立期間に対応するため、知的財産公報で侵害のおそれのある商標の監視を積極的に行うことも重要となる。
「Vietnam」等の国名要素を含む商標に対する規制の強化
改正知財法は、「Vietnam」という文字またはその他の国家的要素を含む商標の登録について、規制を強化している。特に、新設された第74条第2項dd1号は、ベトナムにおける商品または役務の地理的出所を示す標識は識別力を欠くと規定している。ただし、出願日前に当該標識が広く使用され商標として認識されている場合、または当該標識が団体商標もしくは証明商標として登録された識別力ある標章の構成要素である場合は、この限りでない。
この結果、「Vietnam」を含む商標については(団体商標または証明商標に該当しない限り)、従来のように「Vietnam」部分についてのディスクレーマー(権利不請求)を求める運用ではなく、「Vietnam」を含む商標全体について拒絶理由が通知されることとなる。
本規制は、国家ブランドの保護および不適切な出願の抑止に資するものであり、輸出志向型ブランドにおいて「Vietnam」要素を含むことを好む市場状況を踏まえれば合理的な安全装置といえる。他方で、正当なビジネスを展開する企業による出願であっても拒絶が増加する可能性がある。
悪意に基づく無効化事由の拡張
改正知財法第100条第7項によれば、出願情報が不正確である、真実に反する、不誠実であると信ずるに足りる理由がある場合、知的財産庁は登録を無効にする権限を有する。
この規定は間接的ではあるものの、悪意に基づく出願に対する規制を強化し、そのような商標の無効を主張するための追加的根拠を提供するものである。
総じて、本改正は制度の公平性を高め、いわゆる商標の先取り(スクワッティング)を抑制する方向に資するものといえる。ただし、「不真実」または「不誠実」といった要件の立証には、依然として強固な証拠が必要となるであろう。
資産としての商標の商業的活用の強化
改正知財法は、知的財産権(商標を含む)を出資や融資の担保として利用することを明示的に奨励するとともに、その評価、ライセンスおよび譲渡に関する枠組みをより明確化している。
実務上、ベトナムにおいて商標は無形資産として過小評価される傾向があったが、本改正によりこれを金融手段として位置付けることで、特に中小企業にとって、強力なブランドを担保とした銀行融資など、新たな資金調達手段が開かれることとなる。このように、知的財産権は防御的権利から戦略的な事業資産へと昇格する一方で、その評価の適正性や権利の有効性、負担の有無等に関するリスク管理の重要性も増大する。
まとめ
2025年改正は、ベトナムを競争力のある知的財産立国として位置付ける大胆かつビジネス志向の改革であり、登録手続の迅速化、デジタル領域における権利行使、ならびに資産としての活用を促進するものである。これらの変化を軽視する企業は、ブランドが成長を牽引する市場において、遅延や機会損失のリスクに直面する可能性がある。
本改正は、イノベーション、電子商取引および国際統合に対するベトナムのコミットメントを示すものであり、時宜にかなった必要な措置といえる。ベトナムにおいて商標管理を行う者にとっては、今こそこれらの改善に適応し、その利益を最大限に享受すべき時期である。
本文は こちら (Key Changes for Trademarks under Vietnam’s Amended IP Law)
