2026-07-31

インド:「誠実な競合使用等の場合の登録」を根拠とした登録商標に関する教訓 - Chadha & Chadha IP

はじめに
化粧品・パーソナルケア業界において、製品の機能を表す記述的表現の利用が増加していることにより、商業上のブランド戦略と商標法上求められる識別力要件との間の緊張関係が一層顕著となっている。記述的表現は、製品の用途や特徴を消費者に効果的に伝達することができる一方で、通常は商品の出所を識別する機能を果たすことができず、そのため商標としての保護対象から除外される。これは、そのような用語について独占権を認めることは、同業者が自らの製品を説明するために同様の表現を用いることを不当に妨げる結果となるからである。

 デリー高等裁判所のHonasa Consumer Ltd.(以下、「Honasa」) 対 Visage Beauty and Health Care Pvt. Ltd. & Anr.(以下、「Visage Beauty」)事件は、このような対立を典型的に示す事例である。本件は、登録商標「D-TAN」の有効性を巡る争いであり、記述性の判断は登録の有無や商標権者のブランド戦略上の意図によって決まるものではなく、取引の実情における当該用語の使用実態に基づいて判断されるべきであることを明確にした。さらに裁判所は、商標登録の存続期間や当該商標の使用によって得られた売上高は、特に商標法第12条の「誠実な競合使用等の場合の登録」を根拠として登録が認められた場合には、消費者が当該商標を特定の事業者と結び付けて認識していることを示す直接的証拠に代わるものとはならないことを明確にした。

事案の概要
Visage Beautyは、2010年12月9日、第3類を指定して文字商標「D-TAN」の登録出願を行い、2009年12月1日から使用している旨を主張した。
一方、Honasaは、「AQUALOGICA」のブランド名の下でスキンケア製品を販売しており、「AQUALOGICA DETAN + DEWY SUNSCREEN」などの商品を発売していた。
 2023年4月、Visage Beautyは、Honasaによる「DETAN」の使用が自己の登録商標を侵害すると主張して、Honasaに対し使用差止め及び侵害行為の中止を求める警告書(cease and desist notice)を送付した。
 これに対しHonasaは侵害を否認するとともに、「DETAN」及び「D-TAN」(※Tan:「日焼け、肌の褐色化」を意味する英語)は、英語の接頭辞 「De-(〜を取り除く・除去する)」と併せて「日焼け除去」を意味する一般的な記述的表現として業界で広く使用されていると主張した。その後、Honasaは1999年商標法第57条(登録の取消又は変更の権限及び登録簿の更正の権限)に基づき、登録商標の取消と登録簿の更正を求めてデリー高等裁判所に申立てを行った。

裁判所の判断と分析
裁判所はHonasaの主張を認め、「D-TAN」の文字商標登録を取消すよう商標登録官に命じた。その判断は以下の三つの事実認定に基づいている。
第一に、裁判所はVisage Beautyの商標出願に関する審査経過を検討した。
 2012年、商標登録官は、「D-TAN」が識別力を欠くとして、商標法第9条第1項(a)及び(b)に基づく拒絶理由を通知した。これに対し、Visage Beautyは識別力について実質的な反論を行わず、代わりに、通常であれば識別力を欠く商標又は他人の商標と抵触する商標であっても、「誠実な競合使用等の場合の登録」が認められる場合には登録を許容する商標法第12条の適用を求めた。
 裁判所は、この点がVisage Beautyの「アキレス腱」であると評し、「誠実な競合使用等の場合の登録」を根拠として登録を取得した商標権者は、当然に第三者による併存使用の正当性を認めて登録を受けたものである以上、その後になってこの登録を根拠として併存使用者を排除することはできないと判示した。 

第二に、裁判所は取引の実態において用語がどのように使用されているかを判断する基準として、「McCarthy on Trademarks and Unfair Competition」で示された判断基準を適用した。
 その結果、「D-TAN」及び「DETAN」という語は、化粧品業界全体において製品の効能を説明する記述的な用語として使用されていることを認定した。
 さらに、Visage Beautyの商品を確認したところ、「D-TAN」の表示は、主要ブランドである「Professional O3+」の下に、より小さい文字で表示されていた。
 裁判所は、このようなVisage Beautyによる表示態様こそ、「D-TAN」が商品の出所を表示する商標としてではなく、製品の種類又は機能を説明する記述的な用語として機能していることを裏付けるものであると判断した。

第三に、使用によって獲得された識別力について、裁判所は、売上高や広告宣伝費のみをもってセカンダリー・ミーニングが獲得されたとは認めなかった。
 提出された公認会計士の証明書は、当該商品の商業的成功を示すものではあるものの、消費者が当該商標をVisage Beautyの商品と排他的に結び付けて認識していることを示す消費者調査などの独立した証拠が存在しない以上、使用による識別力の獲得を立証するものとはいえないと判示した。

所見
本判決は、商標法第9条と第12条を相互に関連付けて解釈した点で特に重要である。
 第9条は、絶対的拒絶理由を定める規定であり、識別力を欠く商標又は商品の品質、用途その他の特徴を記述する表示のみから成る商標については登録を認めないことを原則とする。他方、そのただし書により、使用によって識別力を獲得した場合には登録を認める余地を残している。
 これに対し、第12条は限定的な例外規定であり、商標が本来は識別力を欠き、又は他人の商標と抵触する場合であっても、商標登録官が「誠実な競合使用等の場合の登録」であると認めたときには登録を許容するものである。この規定は、その性質上、同一又は類似する商標が複数の権利者によって併存することを当然に予測している。
 裁判所の論理は、第12条に依拠して登録を取得した商標権者は、その後に当該登録を根拠として、第12条が本来保護・許容することを予測する併存使用者を排除することは許されないことを明確にした点に意義がある。

結論
本判決は、商標の記述性は、辞書上の新奇さや商標権者の主観的なブランド戦略とは異なり、当該用語が取引の実態においてどのように使用されているかを基準として判断されるべきであるという原則を改めて確認した。
 また、使用による識別力の獲得が争点となる場合には、たとえ顕著な商業的成功を収めていたとしても、それだけでは消費者が当該商標を特定の事業者と結び付けて認識していることを示す直接的証拠にはならないことを明らかにした。
 日用消費財や化粧品業界の事業者にとって、本判決は、登録商標であっても、その商標自体に本質的識別力や使用によって獲得された識別力が認められない限り、絶対的かつ争い得ない独占権が付与されるものではないことを改めて示す重要な判例である。

本文は こちら (The exclusivity paradox: Lessons from Honasa Consumer Ltd. v. Visage Beauty)