2017-04-13

友利昴の、役に立たない商標の話「バンド名を独占するのは難しい?」

  歌手名やバンド名を独占することは可能なのだろうか? 日本の商標審査基準においては、「録音済みのコンパクトディスク」など、音楽を収録した商品を指定して歌手名やバンド名を商標出願すると、「商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場合には、その商品の『品質』を表示するものと判断」されることになっており、商標登録は難しい。

  そこで実務上は、デビュー前や売れる前など、「需要者に広く認識される」前に商標登録を済ませたり(無名な方が商標登録しやすいとは変な感じだ)、あるいは、バンド等の場合はロゴ態様で商標登録を行うことがあるようだ。

  そんな風にして商標登録をなんとか実現すれば、同じ名前の歌手やバンドがデビューすることを防ぐことができるのだろうか? それは、CDジャケットや音楽配信サイトにおける歌手名表記が、他の歌手名の登録商標と同一・類似だった場合、出所混同を引き起こすおそれがあるかどうかによるのだろう。

同姓同名の別人が何人も歌手デビューしたら、お目当てのCDや配信楽曲が探しにくくなるのは確かだ。特にiTunesなどでは、歌手名と曲名と小さく表示されるジャケットの画像だけを見れば曲が買えるので、「大塚愛の新曲かと思ってダウンロードしたら、演歌歌手の大塚愛じゃんかよ~!」というように、誤って購入してしまうという事態はあり得る(「さくらんぼ」の大塚愛さんの他に、演歌歌手の大塚愛さんも実在します。引退してますが)。

この事態を「出所混同」と取るかどうかは意見の分かれるところだが、裁判例は否定的なようである。侵害事件ではないが、LADY GAGAが代表を務める音楽事務所が「LADY GAGA」の商標登録を求めて特許庁と争った裁判において、知財高裁は、「(第三者がCD等に『LADY GAGA』を使用した場合は)品質(内容)の誤認を生じることがあり得るとしても,出所混同を生じさせることはない」と断じている。つまり、同じ歌手名のCDを間違って買うことは、出所混同ではなく品質誤認の結果だと言っているのだ。

しかし、品質誤認の結果だとしても、同じ歌手名がダブっていたら、前述の通り不都合が多い。それにもし、ある日突然「ジョン・レノン」を名乗る顔面白塗りのアブなそうなヤツがデスメタル歌手としてデビューして、愛と平和に唾を吐きかけたら(ちょっと面白いが)、オノ・ヨーコでなくとも「お前、それはないんじゃないの?」と言いたくなるだろう。

現実のショービジネスの世界では、先にデビューした、もしくは先に売れた歌手に配慮して、同名でのデビューは控えたり、名義を変更したりする美しい慣行があるようだ。バンド「凛として時雨」のボーカル「TK」は、ソロデビューにあたり歌手表記を「TK from 凛として時雨」とした。音楽業界でTKといえばTetsuya Komuro。同氏に配慮した結果ではないかと筆者はにらんでいる。かのX JAPANも、かつて「X」表記だったが、アメリカ進出にあたり、同名のバンドが存在したことが分かったために現名称に変更したという。

いつか空気を読まない歌手やバンドが登場したとき、法律は果たして元の歌手やバンドをどのように救ってくれるのか、あるいは救わないのか。気になるところではある。勝手に「四代目J Soul Brothers」とかね。まぁ、法律に頼らずとも、ファンの反発によって自然淘汰される可能性も高いか……。