2017-08-07

日本:注目裁判例「LE MANS不使用取消事件」 -工藤莞司弁理士

不使用取消審判に係る登録商標の使用については、商標的使用は要しないと判示した事例:「LE MANS不使用取消事件」(審決取消請求事件知財高裁平成28年(行ケ)第10086号 平成28年9月14日)

事案の概要
 原告(請求人)は、被告(被請求人)の有する「LE MANS」(登録第971820号)に係る商標登録に対して不使用取消審判(2014-300901)を請求した処、特許庁は不成立の審決をしたので、知財高裁に対し審決の取消を求めた事案で、原告は、商標法50条所定の「使用」には、出所表示機能を果たす態様として使用される「商標的使用」を要すると主張した。

判 旨
 通常使用権者ヴアン社は、販売品のワイシャツの襟下に「LE MANS」の織りネームを付するとともに「LE MANS」の下げ札を付し、もって、ワイシャツに本件商標を付したものと認められ、商標法2条3項1号所定の「商品に標章を付する行為」であるから、商標法50条所定の「使用」の事実が認められる。
 商標法50条の主な趣旨は、長期間全く使用されていない登録商標を存続させることは、当該商標権者以外の者の商標選択の余地を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるからである。上記趣旨に鑑みれば、商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り、出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。

解 説
侵害訴訟で確立した商標的使用 本件判決は、不使用取消審判においては、「商標的使用」を明確に不要としたものである。同使用は侵害裁判例で発展、確立した法解釈理論で、侵害として、相手方の使用を排除できるのは、出所の混同の虞による商標権に係る出所表示機能が害されるからである(「POS 事件」昭和 63 年 9 月 16 日判決)。現在では、侵害裁判の抗弁事由として、26条 1 項 6 号に採用されている。
事案が異なる不使用取消審判 不使用取消審判は、不使用登録商標の整理のため第三者の請求により取り消すという制裁規定で、その審理の対象は、商標権者側の登録商標の使用の有無である。侵害と不使用取消審判では、制度趣旨はもとより、使用の認定の点では共通しても、事案も、使用の局面や審理の対象も全く異なる。これに対して、使用は業務上の信用の維持拡大に貢献すべきものとの建前論があるが、制度趣旨や事案を考慮しないと、事案に即した解釈や運用は出来ない。また、不使用取消審判要するとした裁判例では、事案が雑誌等印刷物に係り題号や見出し等が混在している例(「賃貸住宅情報事件」東京高裁平成 13 年 10 月 23 日判決外)で、例外的である。むしろ、裁判例では、積極的に不要説を採っている(「ポーラ事件」東京高裁平成 3 年 2 月 28 日判決、「ビッグサクセス事件」東京高裁平成 12 年 4 月 27 日判決外)。見解が二分している中で、明解な本件判決の意義は大きい。(工藤莞司)