2020-10-12

日本:注目裁判例、大学名について不正競争防止法で争われた事例 - 工藤莞司

「京都芸術大学事件」(令和2年8月27日 大阪地裁令和元年(ワ)第7786号)

事案の概要  本件は、原告が、その営業表示として著名又は需要者の間に広く認識されている原告表示「京都市立芸術大学」(原告表示1)等に類似する本件表示「京都芸術大学」を被告が使用しているとして、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号又は2号に基づき、本件表示の使用差止めを求めた事案である。裁判所は、「京都市立芸術大学」等の著名性を否定し、2条1項1号該当性についてのみ判断した。

判旨 原告表示1「京都市立芸術大学」の周知性 認定事実、証拠等によれば、原告大学は、現在の名称となってからでも50年以上の長期にわたり、京都市で芸術教育を実施し、また、原告大学は、京都市内にギャラリー(@KCUA)を設置し、案内チラシ等に原告表示1を付すなどして展覧会や演奏会を主催し、市民向けの芸術教育活動等を行ってきたことが認められる。京都府及びその近隣府県の範囲における交通や新聞等による報道の実情等に鑑みると、京都府及びその近隣府県に居住する一般の者が、原告表示1を目にする機会は、相当に多いと合理的に推認される。そうすると、原告表示1は、原告大学を表示するものとして需要者に広く認識されており、周知のものといってよい。

要部 原告表示1の要部は、その全体「京都市立芸術大学」と把握するのが相当であり、殊更に「市立」の文言を無視して「京都芸術大学」部分を要部とすることは相当ではない。また、本件表示の要部については、「京都」、「芸術」及び「大学」のいずれの部分も出所表示機能が乏しいことから、全体をもって要部と把握するのが適当である。

類似性 原告表示1と本件表示とは、離隔的に観察すると、「市立」の有無によりその外観及び称呼を異にすることは明らかである。観念についても、「市立」の部分により設置主体が京都市であることを想起させるか否かという点で、原告表示1と本件表示とは異なる。
取引の実情としても、需要者は、複数の大学の名称が一部でも異なる場合、これらを異なる大学として識別するために、当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。そうすると、原告表示1と本件表示とは、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえない。そうである以上、原告表示1と本件表示とは、類似するものということはできない。

コメント 本件事案では、大学名について、不正競争防止法2条1項1号該当性が争われた珍しい例である。大学名も商品等表示であり、原告「京都市立芸術大学」の周知性を認めたため、原被告の大学名の類否が最大のポイントとなった。裁判所は、原告の「市立」の存在、その有無に着目し、全体観察をして、外観、称呼及び観念が異なり、類似しないと判断した。離隔観察を前提と明記しているが、観念は兎も角、長い構成の外観、称呼は同一ではないが、互いに紛らわしいとは言えないのであろうか。原告は控訴したという。
学校名が争われた先例として、「呉青山中学校事件」(平成13年7月19日 東京地裁平成13年(ワ)第967号)がある。