投稿:工藤莞司 弁理士 特許庁にて審査基準室室長、商標課長、特許庁審判部商標代表部門長、その後首都大学東京法科大学院教授を歴任。
現在は創英国際特許法律事務所で主に商標の審判、訴訟、鑑定等を担当。
時計の商標「フランク三浦事件」 =パロディ使用は判断の対象外=
先日、時計の商標「フランク三浦」と時計の周知な商標「フランク ミュラー」が争われて、特許庁においては登録無効とされたが、知財高裁では無効とした審決が取り消され有効と判断されたと報じられた。現在、「フランク三浦」がパロディ商標として使用していることから、話題を呼んでいる。
「フランク三浦事件」この事件は、指定商品「時計」等の商標「フランク三浦」の登録が、腕時計に使用して周知な商標「フランク ミュラー」とは類似し(商標法4条1項11号)、また出所の混同のおそれがある(4条1項15号)などとして、フランクミュラー側から無効審判請求されたものである。登録無効の判断時期は、商標「フランク三浦」の出願及び登録査定の時点である。このため、その後のことであるパロディ使用は問題とされない。特許庁は請求を認めて登録無効の審決をしたが、知財高裁は、審決を誤りとして取り消した。そのポイントは、両商標は非類似とした点にあり、そして、漢字「三浦」を有する商標とは出所の混同のおそれはないとした。これで、特許庁は、再度審理し他に無効理由が発見されない限り、無効審判請求不成立の審決をすることとなる。
パロディとは 今回はパロディ使用が問題とされなかったが、商標法とパロディ商標について考えてみたい。嘗て札幌地裁に係属した「面白い恋人事件」は、パロディ事件として注目されたが和解で終了した。パロディとは、著作権法上問題となる概念で、「パロディとは、現存の著名な著作物の作品の文体・作風などを変更し、風刺化、滑稽化した作品をいう。」(丸善「知的財産権辞典」85頁)。現行著作権法には規定はなく、ある見解によれば、著作権法32条に規定する引用の範囲内であれば許され、範囲外であれば翻案権や同一性保持権の侵害が問題とされるという。
商標法の扱いと裁判例 商標法分野においても、同様であって、パロディ商標の使用商品等が、指定商品と同一又は類似で他人の登録商標と類似する範囲内、また出所の混同のおそれのある範囲内であれば、パロディ商標の登録は阻止され(4条1項11号、15号、19号)、他人の登録商標及び指定商品等と同一又は類似の範囲内の使用であれば侵害となる(25条、37条1号)。しかし、いずれもパロディ自体が直接判断の対象となることはない。
パロディ商標の裁判例がある。対象となった引用商標は、スポーツ用品等で著名な登録商標(右掲図、出願商標は左掲図)で、特許庁は、出所の混同のおそれがあるとして4条1項15号を適用して登録を取り消し、知財高裁も、「取引者,需要者は,顕著に表された独特な欧文字4字と熊のシルエット風図形との組合せ部分に着目し,周知著名な引用商標を連想,想起して,当該商品の出所に混同を生ずるおそれがある。」と特許庁の異議決定を支持した(「KUMA事件」平成25年6月27日 知財高裁平成24年(行ケ)第10454号)。
これらの裁判例からも窺えるように、商標分野では、「商標の類似」や「出所の混同のおそれ」が問題とされる。不正競争防止法上の周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為についても、保護を求める側の商標が周知・著名性を条件として、類似や出所の混同のおそれも必要である(不2条1項1、2号)。