2016-07-25

商標の類似に係る注目知財高裁裁判例- by 工藤莞司 弁理士

=出所の混同の有無と4条1項11号の類似判断=

知財高裁は今年3月、「原告は,本件審決のとおり,本願商標と引用商標が類似するとしても,原告の商品の出所について誤認混同が生じることはない旨主張する。       しかし,商標法が先願主義をとる以上,先に出願・登録された引用商標と類似する本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものといわざるを得ない。』(「Coleman事件」知財高判平成28年3月16日 平成27(行ケ)10193)と判示した。

 知財高裁判断への疑問 私は数年前だが、知財高裁の当時の商標の類似判断に疑問を呈して、次(要旨)のように書いた(拙稿「商標の類似に関する判例と最近の知財高裁裁判例」日本ライセンス協会誌Vol53.No2.15頁以下、同じ傾向はその後も続いている。)。 商標法4条1項11号に係る事案について、特許庁が商標類似と判断したものが非類似と判断されて、少なくない審決が取り消されている。判決は複数の最高裁判例を引用して、しかも、その取消原因が個別具体的な取引の実情に基づくものが多い。知財高裁各判決は当該各商標の個別具体的な取引の実情、すなわち当該商標の使用状況までを認定して、出所の混同の虞がないから商標は類似しないと判断し、そのような裁判例として、「Gold Loan事件」(知財高裁平23・4・27速報433-17084)、「けんしんスマートカードローン事件」(知財高裁平23・11・30速報440-17407)、「みらべる事件」(知財高裁平23・12・26速報441-17458)等がある。                          (4条1項11号の位置付け)しかし、不登録事由である4条1項11号に係る商標の類否判断については、そこでは行政処分として、公平性や統一性があってこそ、安定した商標権の設定が可能となり、公示情報により予測可能性も伴うことになる(27条)。登録主義の下で、出願前の使用の立証如何で登録性が左右されることもあるとは考え難い(識別力に係る3条2項は例外である。)。仮に、出願商標が既に周知・著名性を獲得したものであっても、類似範囲に先願に係る他人の登録商標が存在すれば、当然に11号の適用がある。当該出願人は、事案に応じて、4条1項10号又は15号違反により登録無効審判を経て登録を受けるのが商標法の想定する処である。                        (4条1項11号の趣旨)また、11号に係る商標の類似判断においては、具体的な混同の虞がなくとも、抽象的な混同の虞があれば足り、商標の類似は否定されない。未使用同士や未使用と使用中、使用地域の違いに係る商標間等の場合でも、商標及び指定商品等が同一又は類似であれば、抽象的な混同の虞は生じ得るからである(4条1項15号括弧書き)。安定した商標権の設定が優先し、先願主義の下ではやむを得ない。          この意味でも、商標の類否判断基準は、使用・未使用商標共通の基準であるべきで、「氷山印事件」判例(最高裁昭和39年(行ツ)第110号 昭和43年2月27日 民集22巻2号399頁)の示す取引の実情については、「指定商品全般に関する一般的、恒常的な取引の実情」(「保土ヶ谷化学社標事件」最高裁同47年(行ツ)第33号 昭和49年4月25日 審決取消訴訟判決集昭和49年443頁)と解するのが妥当である。

冒頭の裁判例の判示は、11号の適用においては、先願主義を理由に具体的な出所の混同の虞の有無に、抽象的な混同の虞である商標の類似を優先させたものと考えられる。今後の動向が注目される。