事件番号: 知財高裁平成27年(ネ)第10037号 「湯~トピア事件」商標権侵害行為差止等請求控訴事件(平成27年11月5日 原審東京地裁平成25年(ワ)第12646号 平成27年2月20日)
事案の概要 本件は、指定役務「入浴施設の提供」に係る商標権を有する被控訴人(原告)が、控訴人(被告)運営の入浴施設において使用する標章「湯~トピアかんなみ」が原告商標権に係る登録商標「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」に類似し、原告商標権を侵害するとして、使用差止め及び損害賠償の請求をした処、原判決は使用差止め及び損害賠償の一部を認容したことから、被告が控訴した事案である。
結 論 原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分「湯~トピアかんなみ」とを対比すると、原告商標からは「ラドンケンコウパレスユートピア」の称呼及び「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じ、被告標章からは「ユートピアカンナミ」の称呼及び「函南町にある、理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じることが認められるから、原告商標と、被告標章の強く支配的な印象を与える部分とは、称呼及び観念を異にするものであり、また、外観も著しく異なるものである。その上、いずれも「ユートピア」と称呼される「湯~とぴあ」又は「湯~トピア」が含まれることを考慮しても、「湯ーとぴあ」、これに類する名称を用いた施設が全国に相当数存在すること、被告施設の所在地などの事情をも考慮すれば、原告商標と被告標章とが、入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても、需要者等において、出所の誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。したがって、被告標章は、原告商標に類似しない。
コメント 商標の類否判断が、原審と逆転した事例である。原審は、被告標章中、「かんなみ」は地名でありサービス提供地で、識別力なしとして「湯~トピア」を要部と認定したのに対し、控訴審では、「かんなみ」も「湯~トピア」も単独では、要部とは言えないと認定し一体的に観察したため、原告登録商標とは類似しないと判断された。「湯~トピア」も他の多くの使用例等から要部とはなり得ないとしたものである。混同の虞なしはサービスの非流通性も影響していると思われるが、原審が従来基準通りの判断で明解で分かりやすい。 控訴審は、サービスの地域性も影響したもので、商標権の効力等からの妥当性が検討されるべきと思う。ネット上の使用や将来的に、施設の増設や近接、また両者の「湯~とぴあ」、「湯~トピア」部分が周知・著名性を獲得したときは、別判断になりかねないという問題を孕むと思われる。
工藤莞司