2017-03-17

「フランク三浦事件」登録無効成立審決の取消確定 ー 工藤莞司弁理士

 昨年4月マスコミで話題になった知財高裁判決「フランク三浦事件」について、最高裁は、ミュラー側(請求人・被告)の上告手続を斥けたと報道された(2017.3.7毎日新聞)。

「フランク三浦事件」の経緯 この事件の経緯は複雑である。大阪の会社(商標権者・被請求人・原告)が登録した指定商品「時計、宝玉及びその原石」等とする本件商標「フランク三浦」(「浦」の右上の「、」はない)の登録について、ミュラー側が登録無効審判(2015-890035)を請求した。その理由としては、時計に使用する商標「フランク ミュラー」外を引用し商標法4条1項11号、15号等違反としたものである。特許庁は無効成立の審決をしたため、被請求人が知財高裁に提訴した処、知財高裁は、両商標は類似せず、使用しても出所の混同の虞もないとして、審決を取り消した(知財高裁平成27年(行ケ)第10219号 平成28年4月12日)。

これに対して、ミュラー側が上告受理申立てをしたが、不受理の決定があったということである。したがって、知財高裁の審決取消しの判決は確定し、今後、特許庁は、再審決をすることになるが、結論的には知財高裁の取消判決に従うことになる。

パロディ使用は判断対象外 この事件が話題を呼んだのは、大阪の会社側の使用がミュラー側時計のパロディ使用であったからであるが、登録無効審判では、本件商標の登録が、無効か否かが判断されその判断時点は出願時及び査定時で、登録査定に誤りがあったか否かである。したがって、本件商標の登録後のパロディ使用は、本件審判の判断の対象外である。この点、特に知財高裁判決は明確である。

その一方で判決は、無効理由なしの判断後、ミュラー側の主張に応えて、仮にパロディ使用を入れても混同の虞はないとの判断に及んでいることから混乱している。この判断は、判決結論には関係しない傍論的判断で、パロディ使用を認容したものではないが、この点のみがマスコミ等では取り上げられている嫌いがある。

 登録後の使用は不正使用取消審判 商標法上、登録後の使用が問題になるとすれば、不正使用の取消審判においてである。同審判では、商標権者が、故意に、自己の登録商標に類似する商標を使用して、その使用が他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるものであるときに制裁として、審判請求により登録を取り消すというものである(51条)。故意とは、相手方の商標の存在を知って混同を認識していることで、相手方の商標には周知・著名性が必要である。そして、混同の虞で足り、広義の混同を含むことは商標法4条1項15号と異ならない。なお、前掲知財高裁判決は、パロディ使用を入れても混同の虞なしとの判断をしているが、事案が異なる上に傍論で、影響しない。