=最高裁、除斥期間経過後は原則不可と判示=
商標権侵害に対する被告の抗弁 商標権の侵害訴訟において、被告は、その使用は商標非類似等で侵害には該当しない旨主張して争うことができる。また、原告商標権の効力が及ばない旨(26条)や先使用権を有する旨(32条)等の抗弁も可能である。これら抗弁の一つに、当該商標権の商標登録に無効理由が存在しているときは、権利行使の制限の抗弁が可能である(39条で準用する特許法104条の3第1項)。平成12年の最高裁の判例変更により(「キルビー特許事件」平成12年4月11日 最高裁平成10年(オ)第364号 民集54巻4号1368頁)、侵害訴訟において、無効理由の存在を理由とする権利濫用の抗弁を可能とした。従来は特許や商標登録の無効の判断は無効審判においてのみ可能であるとした大審院の判例を変更した。そして、平成16年特許法の改正(平成16年法律第120号)で権利行使の制限規定が新設され、商標法にも準用された(39条・特許法104条の3)。
権利行使の制限の抗弁と除斥期間 ところが、商標法特有の無効審判請求に係る除斥期間を経過した商標権については、同期間経過後は抗弁ができるのか明らかではない。特許法104条の3第1項は、「当該特許権が特許無効審判により無効にされるべきと認められるときは、・・・相手方に対して権利を行使することができない。」と規定し、商標法ではこれをそのまま準用するのみだからである。学説は二分し(宮脇正晴「商標法におけるキルビー抗弁・権利行使制限の抗弁(特104条の3)に関する問題点」パテント2010.別冊2号245頁)、裁判例では抗弁不可とした例がある(「マッキントッシュ事件」平成19年12月21日 東京地裁平成19年(ワ)第6214号 速報394-14888)。
最高裁の解釈 先般最高裁は、初めて、以下の解釈を示した(「エマックス権利行使制限の抗弁事件」平成29年2月28日 最高裁平成27年(受)第1876号)。
1.商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後、商標権侵害訴訟の相手方は、同号該当をもって同法39条、特許法104条の3第1項に係る抗弁を主張することが原則として許されない。
2.商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後でも、商標権侵害訴訟の相手方は、自己の商品等表示として周知である商標との関係での同号該当を理由として権利濫用の抗弁を主張することが許される。
最高裁判決は、商標法4条1項10号を理由とする場合は、事案を二分し、他人の周知商標を引用して抗弁するときは、除斥期間経過後は不可とし、自己の使用商標を引用し抗弁するときは、除斥期間の経過後は、商標法39条で準用する特許法104条の3第1項に係る抗弁ではなくて、権利濫用(民法1条)の抗弁として許容されるとしたものである。先使用権の抗弁もある(32条)が、特許法104条の3第1項改正の契機となった前掲キルビー特許事件判例が示す衡平の理念を重視したものだろう。
本判決の前掲判旨1.の射程は、商標法所定の他の無効理由にも及ぶと思われる。(工藤莞司)