特許庁が実施した「2016年度模倣被害実態調査」によると、調査に回答した2,122社の中で2015年度中に模倣被害を受けたと回答した企業は434社(回答企業の22.4%)であった。回答した企業のうち、製造国が中国(香港を含む)と回答したのは234社、経由国が中国であるとしたのは35社、販売国が中国であるとしたのは216社でした。次いで、韓国、台湾における被害が深刻な状況となっており、東南アジアでは、タイ、ベトナム、マレーシアにおける模倣被害が多くなっている。今後、中国とASEAN諸国との間の自由貿易協定(ACFTA)により、品目ベースで90%以上の自由化がなされる予定で、これに伴って、中国からASEAN諸国への模倣品の流通も増加すると予想している。
世界経済のグローバル化の進展と中国の経済発展によって、模倣品・海賊版が世界規模で拡散していくものと予想され、中国における模倣品の輸出拠点は、これまで香港・広東や上海といった国際港湾都市からの海路が中心だったが、近年は陸路も利用したルートが存在し、ベトナム、インド、イラク、トルコ、UAE等で、中国製の模倣品による被害が増加傾向にあると指摘されており、今後は特に中国から陸路を使って隣接国や、隣接国を経由して周辺国に流入する模倣品にも留意が必要であるとしている。
<主な商標関連問題>
模倣問題の複雑化:最近は、他人と同一の商標を付した単純な態様の侵害とは異なり、複雑な模倣品問題が生じてきている。一見権利侵害がないように思えるテレビで、スイッチをつけてみると画面上に有名商標が表示されるという、液晶テレビ問題や、安全基準を満たしていない自動車用偽造エアバッグ問題などが報告されている。また、中国の商標法では、侵害を構成する使用態様としての「輸出」が明記されていないため、問題となる商品に中国国内で登録されている商標と同一又は類似の表示が付されていても、「全て輸出する予定で、中国国内で誤認混同の虞はないので商標権の侵害はない」という抗弁がなされる場合があると指摘している。
冒認商標出願問題:中国では、外国企業の商品ブランドを、第三者が商標として「冒認出願」する事案が増加している。一旦この被害に遭えば、自社の事業活動を実施する上で自らのブランドを商標として使用できないリスク、ブランドイメージの毀損等、ビジネスに多大な悪影響を及ぼす可能性がある。また、冒認商標を取り消すためには、多大な時間とコストを費やす可能性があるが、それでも最終的に商標を取り戻せるとは限らない。日本企業が商標登録していない商品分野等での出願、日本の地名や地域ブランドの出願、日本のマンガのキャラクターを利用した出願、中国未進出企業や中小企業の商標の出願など、冒認出願されるケースは増加している。また、出願される商標も、商標を類似と言えるかどうかが微妙な態様に変更されていたり、出願者の悪意の立証が難しいように 複数者で分担して出願されていたり等、手口が巧妙化しているため、中国に限らず海外で事業活動を行っている企業は、日本だけでなく諸外国で迅速に権利を取得する、企業名等の重要な商標については出願や登録情報を継続的にウォッチングする等の体制を整えることが重要だと指摘している。
商標と商号の衝突問題:中国では日本企業の商号を悪用する事案も見受けられる。日本企業の商号を、企業名称の一部に含めるかたちで企業名称を登記し、日本企業を連想させる商号を表示することで、消費者に誤認を惹起させて商品を販売しようという日本企業ブランドにただ乗りするものだ。悪質な業者は、日本の本社から授権されている、日本の関連会社であると宣伝しながら商売を行っている。商品や広告に日本企業の商標を使用していない場合は、一般的には商標権侵害とはならないが、中国の法規上、他人の著名な商標を企業名称に使用することを禁じており、仮に登記されても当局により是正できるとされているが、現実には是正を求めるための障害も多く、多くの権利者が対応に苦慮している。
模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告書は こちら