2017-10-10

日本:注目裁判例、「喫茶店店舗外観事件」- 工藤莞司弁理士

「喫茶店店舗外観」が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するとして、わが国で初めて保護された事例(東京地裁平成27年(ヨ)第22042号 平成28年12月19日「喫茶店店舗外観事件」)

事案の概要 本件は、Xが営業する喫茶店「珈琲所コメダ珈琲店」の店舗外観(店舗の外装、店内構造及び内装「X表示」)がXの営業表示に当たるとした上で、Yが営業する喫茶店の店舗外観(店舗の外装、店内構造及び内装「Y表示」右写真)を用いることは、Xの営業表示に類似する営業表示を使用するものであり、不正競争防止法2条1項1号に該当する旨主張して、Y表示の使用差止めの仮処分命令を求めた事案である。                  

判旨 X表示は、その主要な構成要素」記載(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥(注 決定書別紙参照)のとおりの特徴が組み合わさることによって一つの店舗建物の外観としての一体性が観念でき、統一的な視覚的印象を形成しているところ、これら多数の特徴が全て組み合わさった外観は、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたものといえる。切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁が存在することを始めとする特徴(1)①ないし⑥の組合せから成る外装は、特徴的というにふさわしく、これに、半円アーチ状縁飾り付きパーティションを始めとする特徴(2)①ないし⑥を併有する店内構造及び内装を更に組み合わせると、ますます特徴的といえるのであって、書証等に見られる他の喫茶店の郊外型店舗の外観と対照しても、上記特徴を兼ね備えた外観は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているということができる。

X表示は、Y店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で、関西地方において、不競法2条1項1号所定の「需要者の間に広く認識されている」(周知性がある)表示になっていたというべきである。

X表示とY表示とが全体として酷似していることは明らかである。外装及び内装の中で店舗の名称がそれぞれ「コメダ珈琲店」「KOMEDA’S Coffee」、「マサキ珈琲」「Masaki’s coffee」と表示されているなどの相違点を考慮しても、X表示とY表示とが全体として類似していることを否定することはできない。店舗名等の相違を勘案しても、Y表示を使用することは、その使用主体とX表示の出所との間に資本関係や系列関係、提携関係など(系列店、姉妹店などといわれる関係を含む。)の緊密な営業上の関係が存すると誤認混同させるおそれがあると認められる。

解説 本件決定は、店舗外観についても、不競法2条1項1号所定の「商品等表示」、すなわち営業表示に該当すると認めて、同号により保護した我が国最初の裁判例である。アメリカでは、既にトレードドレスとして商品やその包装のトータルイメージ、全体のデザイン、外観も出所表示機能具備を前提として保護され、店舗の外観も含まれるとされている。わが国では立体商標として商標登録の対象ではある。

本件決定では、X店舗外観は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有すること及び周知性を認定して、「商品等表示」に該当すると判断し、そして、Y店舗外観と類似し、両者間においては、広義の混同の存在を認めたものである。この中で、店舗外観が商品等表示該当性については、店舗の外観(店舗の外装、店内構造及び内装)が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴、すなわち出所表示機能性を有し、使用により周知性を獲得していることを基準としたもので、妥当である。

 従来も、店舗外観は「商品等表示」には該当するとはしたが、類否判断で類似しないとして棄却した裁判例はあった(「ごはんやまいどおおきに食堂事件」大阪高平成19年(ネ)第2261号 平成19年12月4日)。工藤莞司