2018-02-13

中国:馳名商標YKK異議不服審判行政再審事件 (事件概要)- CCPIT

中国馳名商標YKK異議不服審判行政再審事件に関する考察―商品関連性,法律適用基準の一致性,需要によって認定する原則を中心に(Feb 1, 2018 By 胡剛, 董暁萌, 甘夢然)

中国では,馳名商標の保護範囲,すなわち非類似の商品をどこまでカバーできるかという問題は,馳名商標に係る事件にとって一番複雑なものであり,かつ昔から争点が多いものでもある。この問題に関する研究は数多くあるが,いままで安定した説がまだない。本稿では,2016年に最高裁が YKK馳名商標の異議不服審判行政再審事件に下した判決に基づき,新しい視点からこの問題について検討を行いたい。

YKK商標は第26類のファスナー業界において非常に有名なブランドであるといえるが,異議申立,異議不服審判,一審,二審のすべての段階において他人の YKK商標が第12類における登録を止めることが出来なかった。最高裁における再審を通じて,ようやく他人の所有する YKK商標を「乗物用内装飾品」における登録について取り消すことができた。最高裁の判決に基づき,馳名商標に係る事件にあたる「商品関連性」,「法律適用基準の一致性」,「需要によって認定する原則」について検討する。また,2017年3月1日より施行した「商標の権利付与・権利確定にかかわる行政事件審理の若干問題に関する最高裁の規定」を参照しながら本件再審事件について更なる考察を行う。さらに,ほかの類似事件の参考として,大衆商品及び専門商品に分けて馳名商標の保護にあたり一般的に注意すべき要点について提言を試みる。本稿は,中国の馳名商標保護に関するご理解に役に立てれば幸いである。

2.事件概要
2.1 引用商標及び被異議商標の情報
原告 YKK株式会社は,中国において,1979年に登録した第97042号先行「YKK」商標(以下,引用商標1という),1998年に登録した第1190591号先行「YKK」商標(以下,引用商標 2 という)を所有する。引用商標1,2はニース国際分類第26類の「ファスナー,プラスチックファスナー,金属ファスナー」などの商品を指定した。
 一方,第3974688号「YKK」商標(以下,「被異議商標」という)は,本事件の第三者である力博社が2004年3月23日に中国商標局に登録出願した商標であり,ニース国際分類第 12 類の「エアポンプ(乗物用付属品),陸上の乗物用のクランクケース(エンジン用のものを除く),自動車用ショックアブソーバー,乗物用車軸,オート車用ショックアブソーバー,陸上の乗物用トランクミッションのシャフト,風防用ワイパー,乗物用内装飾品,自動車,陸上の乗物用エンジン」商品を指定した。

2.2 本件の異議申立,異議不服審判手続き
2006年,YKK株式会社は,被異議商標について商標局に異議を申し立てた。当時の異議申立において次のように主張した:被異議商標は YKK 株式会社の先行引用商標1,2 「YKK」に対する複製である。引用商標1,2は中国市場で長期間にわたる使用により,既に馳名商標となっていた。被異議商標の登録が公衆を誤認し,馳名商標権者の利益に損害を与える恐れがあるものとし,『商標法』第13条第2項に基づいてその登録が許可されるべきではない。しかしながら2009年,商標局は両商標の商品に明らかな差があることを理由に,前記異議理由が成立しない,被異議商標の登録を許可する裁定を下した。その後,YKK株式会社は上記裁定を不服とし,商標評審委員会に異議不服審判を請求したが,商標評審委員会は商標局の異議裁定を維持する裁定を下した。

2.3 本件の行政一審,二審手続き
YKK株式会社は上記中国商標評審委員会の裁定を不服とし,裁判所に行政訴訟を提起した。一審,二審を経て,両裁判所はともに商標評審委員会の異議不服審判裁定を維持し,すなわち被異議商標の登録を許可すると判決した。二審裁判所が2013年10月17日に下した行政判決書の主な内容は以下のようになる。
 「YKK株式会社が商標評審及び訴訟手続きで提出した証拠は,ファスナー商品に登録・使用した「YKK」商標が被異議商標の登録出願日以前に中国において高い知名度を有していることが証明できる。」「ただし,被異議商標の使用した「エアポンプ(乗物用付属品),自動車用ショックアブソーバー,乗物用内装飾品,自動車」などの商品は YKK 株式会社の「YKK」商標が使用する「ファスナー」などの商品と機能,用途,生産部門,販売ルート,消費対象などの面において大きく異なり,関連公衆が被異議商標を見ても,普通はYKK株式会社がファスナー商品に使用した「YKK」商標と関連性があると認識せず,通常は公衆を誤認させ,YKK株式会社の利益が損なわれるという結果を招くことはない。従って,商標評審委員会が,被異議商標の登録が『商標法』第13条第2項の規定に違反しないと認定したことは不当ではない。」

2.4 本件の行政再審手続き
YKK株式会社は,前記二審判決を不服とし,中国国際貿易促進委員会特許商標事務所(CCPIT Patent & Trademark Law Office)に依頼し,2015年9月14日に最高裁に再審を提起した。再審手続きにおいて,YKK株式会社は,被異議商標が「自動車」と「乗物用内装飾品」において登録が許可されるべきではない,少なくとも「乗物用内装飾品」において登録が許可されるべきではないと主張した。最高裁は,審理を経て,2015年12月14日に公聴会を行い,2016年8月4日に開廷審理を行った。2016年9月29日に商標評審委員会の行政裁定,及び一審,二審裁判所の判決を取り消し,商標評審委員会に対して改めて裁定を下すことを命じる再審行政判決を言い渡した。最終的に「乗物用内装飾品」商品において被異議商標の登録を許可されるべきではないと、最高裁は決定した。理由は以下のとおりである。
 「被異議商標の指定商品「乗物用内装飾品」と「ファスナー」とは上下流商品の関係であるため,両者の間,商品関連性が強いと認めてよい。YKK商標は,「ファスナー」商品における馳名商標の事実に基づき,「乗物用内装飾品」においても保護を受けることができる。」
 「(2012)高行終字第1236号,(2013)高行終字第482号の両事件は,YKK 商標が馳名の程度になったと認定した。この両件の事情は本件とほぼ同じで,商標馳名に関する証拠もほぼ同じであることから,法律の適用基準の一致性原則の下,本件の二審判決はYKKの馳名程度に合わせて区分をまたぐ保護を与えるべきである。商標審査の具体的な事情は様々に異なり,商標の個別審査原則はそれなりの合理性があるが,類似事件の裁判時にそれを理由として明らかに逆の判決結果を出すべきではない。そうしないと,商標法律適用規則の明確化,予測可能性を保証することは困難となる。」

2006年の異議申立から2016年最高人民裁判の再審判決まで,本事件は10年間にわたる辛い過程を歩いてきた。被異議商標はすべての指定商品における登録が許可されたという最初の結論から,「乗物用内装飾品」における登録が許可されないと最高裁の判決に至った。再審申請人である YKK株式会社はついに公正な判決を得ることが出来た。

本再審事件は,中国の馳名商標保護の法的モデルとして,中国の他の馳名商標保護事件の重要な参考になる。

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