2018-07-18

日本:注目裁判例、「味噌屋事件」 - 工藤莞司弁理士

注目裁判例
結合商標より「МiSOYA」を分離観察して、「味噌屋」と類似すると判断した審決が支持された事例(「MiSOYA事件」知財高裁平成29年(行ケ)第10168号 平成30年2月20日)

事案概要
本件商標(下図左参照)を有する被請求人(原告)に対して、引用商標(下図右参照)を有する請求人(被告)が、本件商標の指定役務中、第43類「飲食物の提供」については、本件商標が商標法4条1項11号に該当するとして無効審判の請求(2017-890007)をした処、特許庁は、両商標は類似すると判断して、成立審決をしたので、被請求人が知財高裁に対し、審決取消しを求めた事案である。

判旨 本件商標の当該指定役務、引用商標の指定役務の取引者、需要者には、広く一般の消費者が含まれるから、役務の同一性を識別するに際して、その名称、称呼の果たす役割は大きく、重要な要素となる。そうすると、本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては、上記のような取引の実情をも考慮すると、外観をさほど重視することはできず、外観及び観念に比して、称呼を重視すべきであるといえる。
以上によれば、本件商標と引用商標は、称呼において同一であり、両商標からは同一又は類似の観念を生じるものといえるから、本件指定役務の需要者にとって、引用商標と同一の称呼を生じる本件商標を付した役務を、引用商標を付した役務と誤認混同するおそれがあるものと認められる。

解説 知財高裁は、本件商標と引用商標は、称呼、観念上類似の商標と判断し、審決を支持したものである。原告は、外観上著しく異なり、本件商標中の「MiSOYA」は識別力が弱く支配的部分ではないと主張したが、一般消費者を含む指定役務「飲食物の提供」の識別には、称呼の果たす役割は大きく、外観はさほど重視できないとした。
本件判決でも、最高裁が結合商標について非類似と判断した「つつみのおひなっこや事件」(最高裁平成19年(行ヒ)第223号 同20年9月8日 裁判集民事228号561頁)を引用したが、結論の通り類似の判断をして、ここ数年来の知財高裁の結合商標に係る類似判断の傾向には沿っていない。本件商標には、特に識別力が強い支配的部分が他にないことも影響したと思われる。
因みに、引用判例では、『本件商標は,「つつみのおひなっこや」・・・各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。』との認定の下の判断で、いわゆる一連一体の文字商標案件であり、本件とは事案が異なるもので、引用には疑問である。