2018-08-08

日本:注目裁判例、「堂島ロール事件」 - 工藤莞司弁理士

原告商標「堂島ロール」に周知性が認められて、被告標章「堂島プレミアムロール」の使用は不正競争防止法2条1項1号に係る不正競争行為に該当するとされた事例(大阪地裁平成28年(ワ)第6074号 平成30年4月17日)

事案の概要 本件は、ロールケーキについて商標「堂島ロール」を使用し、商標権を有する原告が、被告会社において、被告標章「堂島プレミアムロール」を使用してロールケーキの販売をした等の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当し、また原告商標権を侵害するとして、被告会社、その代表取締役P2及びかって代表取締役を務めていたP1に対し、使用の差止め及び損害賠償の請求をした事案である。

判 旨
原告使用商標の周知性 認定の各事実によれば、原告商品及びその商標「堂島ロール」は、平成18年頃から大阪市を中心に知られるようになって、新聞や雑誌等の記事やテレビ番組で取り上げられるにつれて「堂島ロール」の商品名は全国に知られ始め、並行して原告がその店舗を急速に全国に展開して売り上げが伸びるとともに、マスコミで取り上げられる機会も一層増え、これらの相乗効果で、遅くとも被告会社設立の平成24年6月までには、原告商標は、原告商品の出所を表示するものとして、日本全国で需要者の間に広く認識され、その程度は周知の域を超え著名になっていたものと認められる。

原告商標と被告標章の類似性 被告標章「堂島プレミアムロール」は、このうち、「プレミアム」との語は、優れたあるいは高品質なものを意味する語であり、「プレミアム」の部分は、商品の出所識別機能があるとは認められない。他方、「堂島」は地名、「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称であるが、「プレミアム」が上記のとおり、品質を示す意味しか有しないことからすると、被告標章からは、プレミアムな、すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ、これは原告の周知である「堂島ロール」の観念と類似し、また称呼も同様に類似しているといえる。そうすると、被告標章と原告商標とは、取引者、需要者が外観、称呼又は観念の同一性に基づく印象、記憶、連想等から、両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。

出所の混同の虞 原告商標と被告標章は類似しており、原告商品と被告商品はいずれも一般消費者を需要者とするロールケーキという点で共通し、両商品の販売価格はほぼ一緒であるから、被告商品を販売する行為は、他人である原告の商品と混同を生じさせる行為であるということができる。

解 説
本件裁判例は、不正競争防止法2条1項1号事案で、被告の行為が同号に該当するとして、原告の各請求が認められたものである。1号事案、すなわち、商標や商号に係る周知表示混同惹起行為は、典型的な不正競争行為で、従来は、裁判例も各不正競争行為中最多を占めていたが、これが減少し、商品形態事案は兎も角、該当事例が激減している。原告側商品等表示(商標等)の周知性の立証が必要なところ、これが不十分で、棄却される事例が続いていた。本件は、久しぶりの原告勝訴の事例で、全国や各地の新聞や雑誌における広範な取り上げもが認定されて、地域的な周知を超えて全国的な周知、すなわち著名と認定されている。丁寧な立証活動によるものと思われる。また、「プレミアム」の語が品質表示と認定されて、食品分野では取引の実情だろう。

本件裁判例では、高額な損害賠償も認められている。しかも、被告代表者等に対する請求もで、会社法429条1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)に基づく、珍しい事例である。