商標を侵害する可能性のある商標出願や登録を監視することは良いことだが、監視の結果に悩まされないように、正しいウォッチング戦略を持つことが大切だ。商標弁護士のVanessa Harrowが解説する。
ほとんどの企業は、製品を製造・輸送・取引する国や地域で企業ブランドを商標として登録することの重要性を理解しているが、商標登録自体は会社名や製品名、採用したブランドの使用と保護の第一歩にすぎない。大切な標章を完璧に保護し権利行使できるようにするには、侵害の虞のある第三者の商標出願を監視する必要がある。
早期発見・早期対応の重要性
いかなる種類の商標権侵害や誤った使用に対して、そのような出願商標の発見が早ければ早いほど、企業にとって知的財産権を行使することが容易になる。特に、第三者が潜在的に類似する商標を登録しようとしている場合、先の権利を持つブランド所有者は登録に異議を申し立てるための手続きを提出期限内に行う必要がある。
国によっては異議申立を公告から30日以内に行わなければならないケースもある。期限に間に合わない場合でも商標登録にチャレンジすることは可能だが、より費用がかかり難度が高くなる。
早期発見は、問題となる標章の使用や悪意の商標出願に対抗するための証拠収集の時間を作るうえでも重要である。また、商標ウォッチングは、競合他社や第三者の製品戦略を監視するにも便利な手段であり、例えば、競合他社の商標出願傾向を見ることで、その市場における競合他社の参入の可能性を早期に発見することができるため、全体的な製品戦略に役立つ有益な情報となりえる。オンラインで商標を監視することも有効であろう。
ウォッチングの種類
商標ウォッチングは、潜在的に問題となる商標出願を監視するわけだが、通常は次の2つの形態をとる;
*同一商標ウォッチング:外観的、称呼的同一の文字商標または図形商標(ロゴなど)を認識する。
*類似商標ウォッチング:同一又は混同するほど類似する標章を認識する。
上記の形態の何れもオピニオン付きとオピニオン無しで提供される。オピニオン付きウォッチングには、先の権利を考慮し、事業に与える影響を考慮して、同一または類似する出願商標に関する弁護士のアドバイスが含まれる。
ウォッチングの地理的範囲は、一か国でもよいしヨーロッパ全域でもよく、世界中の国・地域・機関を対象とすることもできる。
何を監視するのか?
商標ウォッチングは、図形を含む登録商標を積極的に監視する重要なツールであり、企業が商標権侵害や標章の誤使用に対する適時の判断と対応を支援する。しかし、本当に効果的なウォッチングを行うためには、ブランド所有者の商標ポートフォリオのサイズと地理的範囲を考慮して商標戦略を立てる必要がある。
自社管理か外部の専門家に委託しているかにかかわらず、ブランド所有者の商標監視戦略は、理想的にすべての関連する登録商標をカバーし、同一または類似する出願商標を認識するのが望ましい。
一般的なウォッチング・サービスは単純な文字商標、スタイライズした文字、ロゴをカバーすることができる。特に外観的な要素が重要な場合は、スタイライズした文字やロゴを監視対象として認識できるサービスであることを確認すべきであろう。
もし企業が世界中で取引し大規模な商標ポートフォリオを所有している場合、すべての地域ですべての商標を監視することは不可能で、費用対効果が低いと考えるかもしれない。そのような場合には、監視できたらいい程度のブランドやセカンダリーブランド(将来中心的な役割を担うブランドに成長する可能性はあるが)と確実な保護を必要とする中心的なブランドや重要な地域を特定し、優先順位を付けるのがよいかもしれない。
ウォッチング結果の管理
大きな商標ポートフォリオと幅広いウォッチング戦略を持つ企業は、ウォッチングの結果として膨大なデータが送られてくるため、精査にかなりの時間を要するだけでなく、データが多すぎて大切な結果を見逃してしまうリスクもある。
このような場合は、オピニオン付きのウォッチングを選ぶとよい。危険度や期限の優先度を強調して結果が送られるため、大量の結果データのプレッシャーから解放されるであろう。
また、指定商品・サービス、競合相手、地域、文字要素などを明確に指定することで、予めウォッチング範囲を限定し精査の時間を短縮することもできる。