2018-11-19

日本:注目裁判例、「南急・鶴図形事件」 - 工藤莞司弁理士

自動車運送業に使用する商標「南急・鶴図形」(下掲左図参照)が、航空会社の「鶴丸マーク」(下掲右図参照)に類似するとして不正競争防止法により使用が差し止められた事例(「南急・鶴図形事件」東京地裁平成29年(ワ)第43698号 平成30年9月12日)

事案概要 航空会社である原告は、自己が使用している原告表示「鶴丸マーク」(下掲右図参照)は周知、著名なもので、被告が、自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件に、被告標章「南急・鶴図形」(下掲左図参照)を使用することは、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争に該当する旨を主張して、使用の差止め並びに車両及び看板その他営業表示物件からの同標章の抹消を求めた事案である。

判 旨 原告表示の著名性 原告表示は、証拠(略)等によれば、原告は昭和26年8月1日戦後初の日本人の手による民間航空会社として設立されたこと、昭和29年には国際線に進出したこと、昭和35年頃から原告表示の鶴丸マークがジェット旅客機の機首に描かれる形で使用され、上記鶴丸マーク は、旅客機の機体だけでなく乗降用のタラップの上部側面の目立つ位置にも使用されていたこと、原告は現在において、137社のグループ全体において航空運送事業を中心に多様な事業を展開し、グループ全体の平成28年度の営業収益は1兆2889億円にのぼること、原告表示は、グループ全体の事業全般における商品等表示として広く使用されていることが認められる。そうすると、原告表示は、昭和40年頃には原告の営業を表示する商品等表示として著名であり、現在においても著名であると認められる。

 原被告表示等の類似性 原告表示と被告標章とは、外観において、いずれも、円形に収まるように描かれた鶴ないし鳥類の頭部、首元及び翼から成り、正面からみて左を向いた鶴ないし鳥類の頭部及び首元を囲むような態様で、下部から頂点に向かって円形の外周に沿うように翼が描かれた全体として円形の赤色の図形であり、鶴ないし鳥類の頭部、首及び翼の形状や赤色の色彩が共通する

 以上の共通点及び相違点を総合すると、相違点である白抜きされた部分や文字部分は、図形全体に占める割合がそれほど大きなものではなく、地の色と同じ色彩である白色が用いられていること、文字部分は図形全体の下方に一般的なフォントで示されているにすぎないことからすれば、原告表示及び被告標章の図形全体及び各構成部分 の形状や色彩の共通点は、上記相違点よりも需要者に強い印象を与えるものと評価することができる。したがって、原告表示と被告標章については、称呼が相違するが、需要者が外観及び観念に基づく印象として、両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあると認められる。被告標章の使用は、不正競争防止法2条1項2号に該当する。

解 説 本裁判例は、不正競争防止法2条1項2号事案で、最近では珍しく、しかも該当するとされたものである。同号では原告表示の著名性及び原被告表示等の類似性のみを該当要件とし、混同の虞は求めていない。著名商標等へのフリーライドやそのダイリュウジョンを保護するからである。原告表示「鶴丸マーク」の著名性は異論ないだろう。類似の判断も、両表示等の各共通点から取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を考慮すれば、妥当であろう。被告は、不正競争防止法19条1項4号の先使用を抗弁したが、斥けられている。

 なお、原告は商標権侵害としても請求したが、裁判所は、不正競争防止法違反から判断した。被告抗弁のサービスマーク登録制度施行経過措置(平成4年9月30日以前から使用の商標)にある継続的使用権の有無の判断を避けたからのようである。