「FLÜGEL（翼）」商標の争いでアルコール飲料とエナジードリンクは非類似と判断された。
原則として、商標の保護範囲は商標が登録されている商品およびサービスに限定される。そのため、商標所有者は類似する商品やサービスに使用されている類似する商標に対してのみ異議することができる。しかし、どういう場合に商品とサービスが類似すると考えられるのだろうか？ 最近争われたAsolo（アルコール飲料を指定して商標登録した「FLÜGEL (フリューゲル：翼)」の所有者）とレッドブル（エナジードリンクを指定して商標登録された「…VERLEIHT FLÜGEL」の所有者）との間の紛争は、それを見極めるのに役に立つ。
「FLÜGEL」対「VERLEIHT FLÜGEL」：紛争の背景
1997年9月、Asoloは国際分類33類（ビールを除くアルコール飲料）と32類（ビール、ミネラルウォーター、炭酸水、その他ノンアルコール飲料、果実飲料、シロップその他の飲料調製品）を指定して文字商標「FLÜGEL」（写真左）をEUに商標出願した。それから14年経過した2011年12月、レッドブルはオーストリアで先行して32類（エナジードリンク）を指定して登録した2つの商標「VERLEIHT FLUGEL」と「Red Bull VERLEIHT FLUÜÜGEL（レッドブル翼をさずける）」（写真右）を根拠に無効請求を行った。
EUIPO（欧州連合知的財産庁）の取消課は、レッドブルの先行する商標の評判が非常に重要であるとし、先行する商標と
出願商標の間に十分な関係があることを認め、出願商標が指定したすべての商品に対してレッドブルの無効請求を受け入れた。
控訴審において、EUIPOの第5審判部はAsoloの訴えを棄却した。審判部はレッドブルの先行する商標が指定する「エナジードリンク」は、Asoloの出願商標が指定する商品と部分的に同じで、部分的に類似していると指摘し、具体的には、「ビール、ミネラルウォーター、ノンアルコール飲料」はエナジードリンクと競合すると考えられ、一方アルコール飲料はエナジードリンクと一定の関係があるとした。
Asoloは審判部の決定を不服として訴訟を提起した。Asoloは、レッドブルがエナジードリンクとアルコール飲料の関係を常に否定している証拠を提出し、レッドブルは、エナジードリンクは消費者をより敏感で元気にすると主張しているが、一般的にアルコール飲料は反対に作用する。したがって、運転手のように注意喚起を求める消費者がエナジードリンクの代わりにアルコール飲料を飲用するとは考えられないと主張した。
裁判で、レッドブルは、両製品ともに「パーティードリンク」であり、同じ場所で同じ消費者（若いオーストリア人）によって飲用されることから両製品は類似すると主張し、さらに、それらの製品はとても似ている刺激性と活力を与える特徴があり交換可能であり、互いに競合関係にあり、唯一の違いはアルコール分の有る無しであると反論した。
商品の類似性を評価
混同の虞を評価する際に、「高い評判」を持つ商標は「高い評判」を持たない商標より広い保護範囲を享受できる。そのほかの関連する要因は、商品が「補完的」であるかどうかである。類似する商標は、類似しない商品やサービスで共存できる。たとえば、AJAXは、サッカークラブ、洗浄剤、火災検知器などのように補完的ではない複数の商品やサービスの商標として登録されている。Asolo 対 EUIPOでは、アルコール飲料とエナジードリンクがこの意味で補完的といえるかどうか、裁判所の判断を確認することができた。
判決で、一般裁判所は非常に多くのアルコール飲料とノンアルコール飲料が、一般的に混同されたり、一緒に消費されたりするが、同じ状況や関連する同じ公衆によって消費されることを意図したものではないとの認識を示し、それらの商品が類似すると考えることは、「飲み物」のジャンルに含まれる多くの商品を同じカテゴリーにすることと同じで、さらに、支給された商品の特徴、意図された目的、飲用は、組成物中のアルコールの有り無しに基づいて異なる。これらを理由として、アルコール飲料とエナジードリンクは類似する商品ではないと判示した。
これは、レッドブルとウオッカを夜間に楽しむ一般公衆にとっては驚きであるだけでなく、ハーグの控訴裁判所によるオランダの判決（23-08-2007）とも異なるものだ。そこでは、アルコール飲料とエナジードリンクは類似すると認められた。いずれにせよ、この一般裁判所の判決は、「飲み物」を販売する商標所有者にとっては、たとえブランドの評判が高くても、保護範囲が制限されているように見えてしまう。