2019-04-12

日本:注目裁判例、「楕円状リング図形事件」 - 工藤莞司弁理士

注目裁判例
楕円状リング図形部分は要部ではないとして、商標非類似と判断された事例(「楕円状リング図形事件」 知財高裁平成30年(行ケ)第10129号 平成31年2月19日)

事案の概要 原告(審判請求人)は、被告(被請求人)所有の本件商標(登録第5498434号・下掲左図)について、登録商標及び使用商標(引用商標2は下掲右図)を引用して商標法4条1項10号、11号及び15号違反を理由として商標登録無効の審判(2017-890034)を請求した処、特許庁は不成立の審決をしたため、知財高裁に対し、その取消しを求めた事案である。判旨は商標法4条1項11号についてのものである。

判 旨
 (引用各商標の楕円状リング図形部分は要部か否か) 原告使用商標の楕円状リングの図形部分の識別力は微弱である上、原告が原告商品に楕円状リング図形からなる引用商標中の一つ(引用商標1)を独立の商標として使用した事実は認められない。原告の引用各商標の楕円状リング図形部分は要部との主張は採用することができない。
(本件商標、引用商標2の類否) 本件件商標の要部である「Dr.Linn」及び「Sakurai」の二段書きの文字部分と引用商標2の要部である「diptyque」の文字部分とを対比すると、外観、称呼及び観念のいずれにおいても明らかに相違するから、本件商標及び引用商標2が本件商標の指定商品に使用された場合、取引者、需要者において、その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものとは認められない。したがって、本件商標は、全体として引用商標2と非類似の商標である(以下引用商標3、4、5,6についても、同旨の判断)。

コメント 
商標法4条1項11号違反の判断において、図形と文字商標からなる結合商標の類似が争われて、否定された事例である。その前提として、本件、引用両商標が有する楕円状リング図形部分が要部か否かが判断されて、支配的部分ではないとして否定された。楕円状リング図形部分は、一般的な輪郭的部分と言え、しかもその部分のみの原告の使用もないとの認定であるから、類似判断の結論は見えてくる。 
 このような図形部分のみにおいての類似の主張は、せめて使用により周知・著名性を獲得しているならば別であるが、実務的にも珍しい。シリーズ商標として共通する図形部分と言いたいのかもしれないが、困難な事例である。
 なお、商標法4条1項10号及び15号の判断においては、引用商標の周知・著名性及び本件商標との類似が否定されて、不成立とした審決に誤りはないとされた。