2019-05-31

日本:注目裁判例、「四つ足動物シルエット図形(甲)審決取消請求事件」- 工藤莞司弁理士

プーマ社図形商標と混同を生ずる虞があるとされた事例
=商標法4条1項15号審決取消し裁判例=

 先般、商標登録無効審判の不成立審決が、知財高裁では、本件商標は無効理由の商標法4条1項15号に該当するとして、取り消された(「四つ足動物シルエット図形(甲)事件」知財高平成29年(行ケ)10206号 平成31年3月26日)。

 審決取消しの理由 審決と判決とに結論の違いが生じたポイントは、本件商標(25類第5392943号 前掲左図)と引用商標(25類第4637003号 前掲右図)の類似性に関する判断である。引用商標の著名性の認定は同じである。判決は、本件商標と引用商標は全体のシルエットは似通っており,本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの,外観全体の印象は相当似通ったものと、緩やかに判断して、広義の混同を認めたものである。これは15号に係る判断基準を示した判例(「レール・デュタン事件」最高裁第平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日 民集54巻6号1848頁)を踏襲したからである。

 判例基準 15号では、両商標の類似性は要件ではなくその必要はないが、前掲判例では、混同を生ずる虞を判断する一つの要素として、「当該商標と他人の表示との類似性の程度」としているからである。これに対して、11号での非類似判断を前提として、15号での混同の虞を否定した審決とは対照的である。

 15号の判断では、「類似性の程度」であり、11号とは同じではなく幅があっても良い。混同の虞の判断要素の一つで、類似が必須ではないからである。引用商標との「印象、記憶、連想等」が問題とされ、離隔観察が前提の判断である。そして、類似性が高ければ混同の虞が増し、他方、類似性が低ければ混同の虞が低いということで、この場合でも、前掲判例が示す、他の判断要素如何では、混同の虞の判断は可能である(同旨・高部眞規子著「実務解説商標関係訴訟」252頁)。商標審査基準も、同旨である(4条1項15号1.(2)①」)である。
 15号の適用は周知・著名商標の保護にも重要なもので、本件事案のような審決の取消し(「レッド・ブル赤牛図形事件」知財高裁平成29年(行ケ)第10080号 平成29年12月25日外)が続くのは残念という外はない。