2019-07-04

原産国の誤認表示問題=原産国不当表示と不正競争防止法=- 工藤莞司弁理士

 この度新聞で、韓国で製造されたディオール化粧品の原産国を「フランス」と公式通販サイトで表示したなどとして、消費者庁が大手百貨店に対して、景品表示法違反(原産国の不当表示)で、是正等のための措置命令を出したと報じられた(19.6.14朝日新聞)。不当な表示は、シャネルやランコム、ジバンシィなど25ブランドの化粧品と雑貨147商品という。

 原産地等誤認惹起行為 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号、景品表示法)違反の措置命令は行政処分だが、商品への原産国を偽った表示は、不正競争防止法上の原産地等誤認惹起行為(2条1項14号)として、民事上の規制の対象ともなる。商品又は役務の原産地や品質、内容などについて取引上誤認させるような表示をする行為、又はそのような表示をした商品の譲渡又は役務の提供などの行為は禁止される。例えば、山形産でないさくらんぼに、「山形産さくらんぼ」と表示することは、産地を偽り、山形在さくらんぼ農家の利益や信用を害すると共に、山形産と思い込んで購入した消費者の利益を害することになる。 行為者に不正の目的がある場合や虚偽表示の場合は刑事罰の対象にもなる(21条2項1号、5号)。

 公益的側面からの適用 原産地等誤認惹起行為は、消費者保護の一面を有する。原産国の虚偽表示や誤認表示は、当該地の事業者たる他の生産者が被害者であろうが直接的ではなく、むしろ消費者が直接的な被害者であろう。しかし、不正競争防止法上、本行為に係る差止請求については、「営業上の利益を害され、又は侵害されるおそれがある者」(3条1項)とされている。事業者間で、本行為違反を争うことは希有であるが、消費者保護の公益性を有することから 本行為違反については、刑事事件となることが多い。外国産牛肉を国産と表示した事例は時々報道される(牛肉産地偽装事件14.8.15毎日新聞)。
 このように原産国不当表示をもって、直接的に不利益を受けるのは消費者である。他の同業者達は、業界としての信用を失うことがあるとしても、不正競争防止法違反としてまで争うことは困難が多い。このため、消費者団体にも差止請求権等の付与という意見もあるが、わが国では実現していない。因みに、不正競争防止法の目的には事業者間の公正な競争の確保とある(1条)。

 景品表示法と併存 本行為中の原産地や原産国の不当表示は、この度の新聞報道のように、景品表示法違反として措置され、消費者の保護をカバーしているとも言えよう。