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商品のカタログ販売が、小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供役務に該当すると認められた事例(「MUSUBI不使用取消事件」令和元年7月11日 知財高裁平成30年(行ケ)第10179号)
事案の概要 原告(請求人)が、被告(被請求人)が有する指定役務「35類 家具・金庫及び宝石箱の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等に係る本件登録商標(登録第5275079号)について、不使用取消審判の請求(2018-300092)をした処、特許庁は不成立審決をしたため、原告(請求人)が、知財高裁に対し、その取消しを求めた事案である。被告は、被告証明の本件使用役務は、「家具・金庫及び宝石箱の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供等」には該当しないと主張した。
判 旨 被告は、カタログやインターネットウェブサイトを通じて通信販売事業を行っており、衣料品をはじめインテリア、雑貨、コスメ(生活用品)や飲食料品まで多岐にわたるジャンルの商品を販売している。被告のカタログオーダーギフト事業においては、「受取手」に被告が発行したギフトカタログが送られ、「受取手」は被告に同ギフトカタログに掲載された各種の商品の中から選んで商品を注文し、被告から商品を受け取り、その商品の代金は、「贈り主」から被告に支払われる。したがって、被告は、ギフトカタログに掲載された商品について、業として、ギフトカタログを利用して、一般の消費者に対し、贈答商品の譲渡を行っているものと認められるから、被告は、小売業者であると認められ、小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を行っているものと認められる。そして、上記便益の提供には、本件使用カタログが用いられているから、本件使用カタログは、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」と認められる。
そうすると、この行為は、商標法2条3項3号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」及び同項4号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」に該当する。
解 説 本件は、不使用取消審判において、被告・商標権者の使用役務が、当該指定役務「家具・金庫及び宝石箱の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等に該当するか否かが争われて、知財高裁は、取引形態を具体的に丁寧に認定し被告の本件登録商標の使用を認めて、該当しないとする原告主張を退け、審決を維持したものである。
また、被告が通信販売に供したカタログについては、商標法2条3項3号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」と認定したもので、珍しい事案でもある。本件判決は、商品の通信販売やインターネット販売に係る役務について、明快な解釈を示したもので、今後の先例とされよう。