注目裁判例
商標法4条1項10号違反を理由とした無効審判において、引用商標の周知性を否定した審決が支持された事例(「らくらく事件」知財高裁平成31年(行ケ)第10062号 令和元年10月9日)
事案の概要 被告・被請求人が有する「家具、机類」を指定商品とする商標「らくらく」(登録第5614453号「本件商標」)の登録について、原告・請求人が商標法4条1項10号違反として無効審判(無効2018-890044)を請求した処、特許庁は引用商標の周知性を否定して不成立の審決をしたため、請求人が、知財高裁に対して、その取消しを求めた事案である。審決の理由は、「らくらく」の文字からなる引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認めることはできず、本件商標は商標法4条1項10号に該当するとはいえないとしたものである。
判 旨 原告が販売する原告商品の包装箱には、「らくらく椅子」、「らくらく正座椅子」又は「らくらく二段正座椅子」との標章が付されており、「らくらく」の文字のみが単独で使用されたものはない。また、原告商品の広告等には、その多くにおいて「らくらく正座椅子」との標章が付されており、「らくらく万能座椅子」、「らくらく万能正座椅子」、「らくらく正座いす」、「らくらく椅子」の標章が付されたものもあるものの、「らくらく」の文字のみが単独で使用されたものはない。
そうすると、引用商標「らくらく」が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、原告商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められないというべきである。
コメント 本件は、引用商標の周知性が否定されたものであるが、原告・請求人は、その使用商標をそのまま引用商標とはしていない。この点で、引用商標の周知性の認定において、事実関係に齟齬が生じて、周知性が否定されたものである。
原告側は、本件商標「らくらく」に対応して、引用商標を特定したのであろうが、提出証拠上では、使用商標は「らくらく椅子」、「らくらく正座椅子」又は「らくらく二段正座椅子」等というのであるから、裁判所の認定も止むを得ない。むしろこれら3件を引用し、本件商標との類否判断において、引用各商標の要部乃至支配的部分は「らくらく」の部分にあるとの主張の方が妥当ではなかったろうか。
商標法4条1項10号裁判例として、「南三陸キラキラ丼事件」(知財高裁平成28年(行ケ)第10245号 平成29年7月19日)があり、こちらは引用各商標の総称として「南三陸キラキラ丼」の周知性が認められている。その前に、使用商標については登録を得るという商標管理の問題かもしれない。