2019-11-11

日本:注目裁判例、商標法4条1項7号違反の無効成立審決が知財高裁で支持された事例 - 工藤莞司弁理士

商標法4条1項7号違反を理由とした無効成立審決が知財高裁でも支持された事例(「仙三七事件」令和元年10月23日 知財高裁令和元年(行ケ)第10073号)

事案の概要 
 請求人(被告)が、被請求人(原告)が有する、5類 「サプリメント」を指定商品とする本件商標「仙三七」(第5935066号)の登録に対して、商標法4条1項7号違反として無効審判(2018-890041)を請求した処、特許庁は無効成立の審決をしたため、被請求人がその取消しを求めた事案である。

判 旨 
 商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く出願行為に係る商標も含まれると解される。(略)
 原告による本件商標の登録出願は、被告が「仙三七」との商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義務を負うにもかかわらず、被告商標が本件被告商品を指定商品として含まない可能性があることを奇貨として本件商標の登録出願を行い、本件商標を取得し、被告が「仙三七」のブランドで健康食品を販売することを妨げて、その利益を独占する一方で、その他の商品の取引に関する交渉を有利に進めるという不当な利益を得ることを目的としたものということができる。
 このような本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると、原告による本件商標の出願行為は、被告との間の信義則上の義務違反となるのみならず、 健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。そうすると、このような出願行為に係る本件商標は、商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえる。

コメント 
 原被告間では 被告は、高麗人参の一種三七人参を原材料とした健康食品・被告商品を関係会社に委託製造し、それを原告は、薬局薬店等へ販売していた。被告商標の使用許諾等については、両者間で覚書を結び、両者は信義に基づいて本覚書を履行するものとしていた。本件判決は、原告の無断登録に対し、原告の覚書違反は信義則上の義務違反で、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為として、審決同様、7号違反を認めたものである。
 最近の知財高裁は、『法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されない。』(「コンマー(甲)事件」平成20年6月26日 知財高裁平成19年(行ケ)第10392号 速報399-15156)を代表として、無断登録に対する7号適用は制限的である。本件判決は、原告の覚書違反、すなわち私的契約違反を捉えて、著しく社会的妥当性を欠く出願行為と認定、判断したもののようであるが、最近の知財高裁の傾向よりは緩いようにも見える。