2019-12-09

日本:最近の商標法改正情報=平成30年の改正及び令和元年の改正= - 工藤莞司弁理士

 商標法の一部改正が引き続いて行われた。平成30(2018)年の改正(平成30年法律第33号 同31年4月1日施行)及び令和元年(2019)年の改正(令和元年法律第3号)である。
 書類提出命令手続を拡充 平成30年の改正で、特許法に倣い、書類提出命令手続が拡充され、裁判所は、侵害行為を立証する等のために必要な書類に該当するかどうかの判断をするために必要と認めるときは、インカメラ手続により書類の所持者にその提示をさせることができると、また裁判所は、インカメラ手続において、提示された書類を開示して専門的な知見に基づく説明を聴くことが必要と認めるときは、当事者の同意を得て、専門委員に対し、当該書類を開示することができるとされた(商標法39条で準用する特許法105条2項、105条4項)。
また判定において当事者から営業秘密記載の申し出があった書類については、特許庁長官が必要と認めたときは、証明等の請求が制限される(商標法72条1項2号)。
 分割出願の新要件 商標登録出願の分割については、手数料の納付を条件として新出願へ分割することができると改正された(商標法10条1項)。

 国等表示の著名な標章の使用許諾 令和元年の改正により、国、地方公共団体又は非営利の公益団体等が有する自らを表示する著名な標章(商標法4条1項6号参照)に係る商標権についても、他人に通常使用権を許諾することができるとされた(商標法31条1項ただし書)。
 損害賠償額の算定方式の見直し 令和元年の改正で、 商標権の侵害行為により生じた損害の賠償額の算定方式が見直された。侵害者が譲渡した商品の数量に基づく損害額の算定については、商標権者又は専用使用権者(以下「商標権者等」という。)が侵害者の譲渡した数量を立証した場合には、これに商標権者等の単位当たりの利益額を乗じて得た額を基本とし(商標法38条1項1号)、この額に加えて、商標権者等の使用の能力を超え製造又は販売することができない事情に相当する数量があるときは、これらの数量に応じた登録商標の使用に対し受けるべきライセンス料相当額を損害の額に加えることができるとされた(商標法38条1項2号)。この場合、裁判所は、ライセンス料相当額の認定に当たっては、当該登録商標の使用の対価について、商標権等の侵害を前提として侵害者との間で合意をしたならば、商標権者等が得る対価を考慮することができるとされた(商標法38条4項)。特許法に倣ったものである。なお、特許法では査証制度(当事者の申立で裁判所指定の査証人が侵害判断に必要な証拠収集・査収を行い裁判所へ報告)が創設されたが、商標法には準用されていない。
 国際商標登録出願の補正 令和元年の改正により、国際商標登録出願について、拒絶理由の通知を受けた後、その事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、指定商品又は指定役務について補正をすることができるとされた(商標法68条の28)。

 その前に環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号 平成30年12月30日施行)による改正も行われた。商標権侵害による損害賠償の額については、登録商標と同一(社会通念上の同一を含む。)の使用による侵害については、当該登録商標の取得及び維持に通常要する費用相当額を請求できるとされた(商標38条4項)。