2020-05-15

日本:注目裁判例、「AI介護」について自他役務の識別力がないとした審決が支持された事例 - 工藤莞司

役務「介護」等を指定する「AI介護」について自他役務の識別力がないとした審決が支持された事例(「AI介護事件」令和2年3月25日 知財高裁令和元年(行ケ)第10135号)

事案の概要  原告(出願人・審判請求人)は、44類 「美容、理容、入浴施設の提供、・・・あん摩・マッサージ及び指圧、カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、はり、医療情報の提供、健康診断、栄養の指導、動物の飼育、動物の治療、動物の美容、介護」等を指定役務とする商標「AI介護」について登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判請求をした(不服2018-11883)処、 特許庁は商標法3条1項3号該当として不成立審決をしたため、その取消しを求めて知財高裁に提訴した事案である。

判 旨 前記のとおり、新聞やウェブサイト等においては、「AI介護」の語が、AIを活用した介護という意味で、「AI介護ソフト」の語が、AIを活用した介護のためのソフトウェアという意味で、「AI介護事業」の語が、AIを活用した介護事業という意味で、「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語が、AIを活用した介護用ロボットという意味でそれぞれ使用されていることからすると、「AI」の語に名詞が続いた場合は、当該「AI」は、「AIを活用した」との趣旨で使用され、また、そのような使用法が一般的に受け入れられているものと認められる。
 以上からすると、本願商標の「AI介護」からは、AIを活用した介護という意味合いが生じ、本願商標に接した取引者、需要者は、通常、本願商標は、本願の指定役務である「介護」の質を示すものと認識するため、本願商標は、自他役務識別力を欠くというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。

コメント 本件裁判例においては、本願商標は3条1項3号該当と判断した審決と同様の判断をして、原告の請求を棄却したものである。知財高裁でも、原被告提出の多数の証拠から認定しているが、最近の「AI」の活用例や応用状況からすると、本願商標が指定役務の質を表示するとの判断は正当な結論である。
 また、3号該当というには、当該役務の業界において、現に使用されている事実を要するとの反論が実務上なされるが、この点、知財高裁は、「商標法3条1項3号の商標に該当するというためには、当該商標が、取引者、需要者において同号が規定する商標に当たると認識されることで足り、当該商標が、その指定役務又は類似する役務において実際に使用されている必要はない」と説示している。商標法3条1項の総括規定3条1項6号の規定でも需要者の認識としている。
 最近、3条1項各号事案で、審決取消訴訟まで行くものは殆どない。