2020-07-06

日本:注目裁判例、指定商品「みそ」で商標「天地返し仕込み」は品質表示とした審決を支持した事例 - 工藤莞司

事案の概要  原告(出願人)は、商標「天地返し仕込」(右掲参照)につき、指定商品を第30類「みそ」として登録出願をしたが拒絶査定を受けたため、不服審判請求(2018-16711)をした処、特許庁は、本願商標は商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号該当として不成立の審決をしたため、審決の取消しを求めて、本件訴訟を提起した事案である。

判 旨  上記認定(略)によれば、味噌の製造工程においては、「天地返し」とは、味噌の発酵・熟成の過程で味噌の上下方向の位置を入れ替えることを意味し、味噌の熟成ムラを防いで全体の品質を均一にするなどの効果があることが理解でき、・・・、「天地返し」を商品の品質を示すものとして表示した味噌が複数販売されている。また、上記証拠等(略)に照らせば、味噌を取り扱う業界においては、「仕込(み)」の語は・・・味噌の製造工程における作業や手間等を表示するものとしても使用され、また、「仕込(み)」の語の前に、味噌の品質等に関する文字や原材料等を表示する文字が結合された場合には、「仕込(み)」の部分は、「醸造された商品(味噌)」と同旨の意味合いでも使用されているといえる。そうすると、「天地返し仕込」の文字を指定商品味噌に使用した場合、取引者、需要者をして、「製造工程において上下方向の位置の入れ替えがされた味噌」という商品の品質を表したものと認識されると認められる。
使用による識別力の獲得については、本件商品の販売期間は3年未満で、その販売地域は1都4県と限定され(証拠略等)、そして、本件商品の生産数量は発売当初は月間約4800個であったもののその後は減少し、原告の主張から推計される全国シェアは生産量ベースで・・・0.005%に満たない(証拠略等)・・・以上によれば、本願商標が商標法3条2項に該当するということはできない。

コメント 本願商標について、自他商品の識別力なしとした審決が、知財高裁でも支持されたものである。出願人としては、本願商標中の「天地返し」の語が、指定商品「みそ」とは関係なく、使用例もないとの主張のようであるが、全体から生ずる意味合いからは製造工程を示したものと、取引者・需要者は認識するものである。判決も、審決も品質表示と判断しているが、生産(製造)方法表示でも良かったかもしれない。
 また、使用による識別力の獲得も否定された。全国的に流通し多数の業者や大量の製品が存在する日常食品の中で、原告が立証した程度の使用事実では、困難と言わざるを得ない。