2020-11-24

工藤莞司の注目裁判:引用商標の周知・著名性等が否定されて不正使用取消審判の不成立審決が支持された事例

(「空調風神服事件」令和2年10月13日 知財高裁令和2年(行ケ)第10017号 )

事 案 指定商品25類「作業服、その他被服」に係る登録商標「空調風神服」(登録第5903051号)を有する被告(被請求人・商標権者)の本件使用商標「空調風神」((下掲参照)に対して、「電動ファンを備えた作業服」について商標「空調服」(引用商標)を使用する原告が、特許庁に対し、本件商標登録の取消しを求めて、51条の不正使用取消審判(2017-300275)を請求した処、特許庁は不成立の審決をしたため、原告(請求人)はその取消しを求めて、知財高裁へ提訴した事案である。

判 旨 両商標の類似性 両商標は「空気調節」、「服」という観念が共通するものの、本件使用商標には、着目されやすい「風神」という観念が含まれており、両商標から生じる観念も相紛らわしいものではない。本件使用商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相違するもので、両商標は類似しない。
 引用商標の周知著名性及び独創性 原告の親会社の登録商標が表示されたCMがウェブサイト上での多数回の閲覧を考慮しても、引用商標が、原告の出所に係る商品を示すものとして周知著名であったと認めることはできない。また、引用商標は、「空調」と「服」という日常的に用いられる平易な言葉を組み合わせた構成であり、独創性の程度が高いとはいえない。被告商品と引用商標が使用された原告商品は、ファンを備えた作業服等で同一の商品であるが、本件使用商標と引用商標は類似しない。そして、引用商標は原告を示すものとして周知著名とはいえず、独創性の程度が高いといえない上、証拠からは、混同を生ずるおそれがあるような取引の実情は認められない。 そうすると、両商標を同一の商品に使用した場合に、出所の混同を生ずるとはいい難い。
 
コメント 本件事案は、商標権者の不正使用登録取消審判(商標法51条)不成立審決の取消訴訟で、本審判の請求は、商標権者が、他人の使用商標とにおいて、故意に、指定商品・役務又は登録商標の同一・類似のものを使用して、その他人の業務に係る商品・役務と出所の混同を生ずる虞があるときなどに、請求により商標権者の登録を取り消すというもので、登録商標の使用権(商標法25条)の逸脱に対する制裁規定である。
出所の混同の虞については、広義の混同を含むが、具体的な虞が必要で、他人の商標等が周知・著名であることが前提とされる(「HASEKO図形事件」平成22年1月13日 知財高裁同21年(行ケ)第10206号)。
本件裁判例では、本件使用商標と引用商標の類似性及び引用商標の周知・著名性のいずれもが否定され、その結果混同の虞も否定された。その認定、判断は妥当で、それは、引用の使用商品「電動ファンを備えた作業服」で商標「空調服」であることに起因していると思われる。言わば暗示的商標であり、一般的に採択されやすい表示で識別力が弱く、従って周知・著名性の獲得は容易ではない商標であることをも、本件裁判例は教示している。